2歳の息子を連れてコロンビアに移住した母、目標は故郷のベネズエラ風エンパナーダの露店を開くこと

マリルス・ララさん。コメ、煮たフリホル(南米でよく食べられる豆の一種)、ほぐした肉、揚げたプラタノ(調理用バナナ)などを一皿に盛った「パベジョン」というベネズエラ料理が大好物

不倫と酒を止めない元夫

ベネズエラでは、首都カラカスから車で1時間ほど南に位置するチャラジャベという町に父母と一緒に住んでいた。ショッピングモールの中にあるケーキ屋「Tu Postre」(スペイン語で「あなたのケーキ」)で、最初は清掃員として働き始めたが、店長から勤務態度を認められたことでケーキのデコレーションを担当するようになった。しかし2017年当時の生活は苦しかった。

チャベス前政権とその政策を受け継ぐマドゥロ政権の経済政策の失敗により、ベネズエラは年平均438%ハイパーインフレーションの最中にあった。米国による経済制裁が始まったのもこの年だ。当時の収入についてララさんはこう語る。

「(ベネズエラの通貨)ボリーバルの価値なんてすぐ変わるから、いくらもらっていたかなんて覚えてない。でも週給すべて払って買えたのは、コメ1キロ、小麦粉1キロ、卵6個だけだった。肉や野菜はほんのちょっとだけよ」。ララさんが両手の親指と人差し指でつくった輪はテニスボールよりも小さかった。

厳しい経済状況に加えて、元夫は不倫と酒を止めず、レオナルドくんにも無関心。ララさんは「心が壊れてしまった」と話す。父母を残して、2歳だった息子レオナルドくんとコロンビアへ移住することを決めた。

インフレ率6万5374%

ブランケット1枚と冬服を詰めたリュックだけを持ち、3日3晩バスに揺られた。標高による気温の低下で体調を崩したレオナルドくんは何度も吐いたという。メデジンの北バスターミナルで下車し、現在住む家までタクシーで移動した。

バスのチケット代、タクシー代、食費、当面の生活費など、必要なお金はすべて、先にコロンビアに移り住み理髪師として働いていた弟が負担した。同じ街に住む弟とは今でもひんぱんに顔を合わせている。ララさんの後を追うように、おばと5人のいとこもコロンビアにやって来た。

2018年のインフレ率は6万5374%に達し、2024年5月までにベネズエラを離れた移民・難民の数は770万人を超えた。ベネズエラの総人口(約3000万人)のおよそ4分の1にあたる。7月28日に実施された大統領選挙では現職のマドゥロ大統領が再選したが、不正があったとして国内外から批判の声が挙がっている。

「ベネズエラ人はどこにでもいる」。ベジョの街中ではそんな声が聞かれる。大統領の任期は6年。移民・難民のほとんどは反マドゥロ派だ。発表された選挙結果のとおりマドゥロ政権が継続すれば、コロンビアへのベネズエラ移民・難民の流入は、収まることはなさそうだ。

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