出産後に男性が蒸発
ベジョに到着した後は、親友の口利きですぐに住まいも見つかった。小さなアパートだったが子どもと住むには十分だった。生活費を稼ぐために、コーヒーの路上販売を始めた。コーヒーのほか、ハーブティー、キャンディー、ガム、クラッカー、タバコなどをカートに乗せてベジョの路上を歩きまわる日々だ。毎日働く。1日の売り上げは平均4万ペソ(約1400円)にのぼる。
今のアパートの家賃は1カ月45万ペソ(約1万5400円)。仕事をする間は子どもを公立の保育園に預ける。料金は無料だ。
ベネズエラ難民が合法で働くには、コロンビア政府が発行する身分証明書「一時的滞在許可証」(PPT)が必要だ。ペニェさんはPPTに加えて、公的な医療保険制度(savia salud)にも入っている。このため病院にかかっても薬代を含めた医療費は無料だという。「子どもの具合が悪くなっても安心。だから今の生活に満足している。でも決して楽ではない」
ペニェさんは実は2年前にベジョで2人目の子どもを出産した。コロンビア人男性との間の子どもだ。ところが生まれた時、男性はすでに蒸発していた。彼から経済的援助は一切受けていない。
「大変だけど2人の息子のためにも頑張らないと」。こう語るペニェさんの表情は暗くない。むしろ明るく朗らかで時折見せる笑顔はかわいらしく、天真爛漫な少女のように見える。
父は仕事をクビに
4年前にコロンビアに来て以来、一度もベネズエラには帰っていない。旅費が出せない、子どもが小さいといった理由はあるが、現在のところベネズエラに戻る気はまったくないという。「この7月のベネズエラ大統領選挙の結果(現職のマドゥロ大統領が不正が疑われるなか勝利)にはがっかりした。マドゥロが死ぬまでベネズエラはどうせ何も変わらない」
ただベネズエラで一人暮らしをする父のことは心配だ。46歳でまだまだ元気。肉屋でずっと働いていたが最近、店の売上金を盗んだ疑いで解雇された。濡れ衣だった。仕事を探しているが、今のベネズエラで新たな職を見つけるのは不可能に近いという。
「お父さんが大好き。母と離婚した後もずっと定期的に会っていた。とても優しい人よ。1カ月前にお父さんの誕生日があったから、ビデオ電話でお祝いの言葉を贈ったの」
ペニェさんは父をコロンビアに呼び寄せて一緒に暮らすことも考えている。「ぜひ実現させたい。でもお金がないから今はまだ無理。飛行機代が400ドル(約5万7000円)もするから。頑張って稼いでいつか一緒にクリスマスを祝いたいな」と無邪気に笑うペニェさん。たとえ厳しい現状が目の前にあっても常に前向きだ。