「犯罪の温床」ともいわれるラオス北部のゴールデントライアングル経済特区。ganas記者の私はタイからメコン川を渡って、いわく付きのこの場所に潜入した。そこはノーナンバーの車が行き交い、さまざまな国籍の人が入り乱れるカオスの街だった。(第1回はこちら)
ビザランの“名所”
川面が茶色に濁ったメコン川。その奥には黄金色に輝くカポックスターホテルが見える。
私は、タイ側にあるラオスとの国境の町チェンセーンに来ていた。ここからメコン川を渡り、対岸(ラオス側)のゴールデントライアングル経済特区に侵入しようと考えていた。
実は2日前、経済特区の南にあるラオス側の町トンプンから入ろうとしたが、止められていた。だが今回は十中八九入れるはず。というのもこのチェンセーンからラオスに入国するルートはビザランによく使われるからだ。
ビザランとは隣国に出国して、すぐまた戻ってくること。その国を一度出ることで滞在期間を延ばすやり方だ。多くの旅行者はチェンセーンを通ってラオスに入り、パスポートにスタンプだけもらってすぐタイに帰ってくる。
しかもゴールデントライアングル経済特区は表向きはカジノを中心とする観光地。タイでは禁止のギャンブルを楽しもうとタイ人がメコン川を渡る。観光客のふりをしていけば大丈夫だ、と私は踏んでメコン川を渡った。
ラオス側の岸に着くと、船着場には大きく「金三角经济特区欢迎」と書かれている。ラオスに入ったつもりが、中国にやって来たような錯覚に陥る。
ここから出入国管理局へ行き、パスポートを職員に手渡す。職員は何か質問するわけでもなく、パスポートに入国スタンプをポンと押した。思惑どおり私はすんなり、ゴールデントライアングル経済特区に入ることができた。2日前に止められたのが嘘のようだった。
寂れたカジノ
ゴールデントライアングル経済特区の実体をつかみたい。ということで私がまず向かったのは街のシンボルというべき「カポックスターホテル」だ。カジノはこのホテルに併設されている。運営するのは、欧米のメディアからマフィアグループと名指しされる中国のエンターテイメント企業キングスローマンズグループだ。
ギリシャ調のホテルの入り口には高級車ロールスロイスが停めてある。私は荷物検査を終えるとすぐ、カジノの中に入った。
そこはバカラの台で埋め尽くされていた。中国人らしき客がタバコをくわえながらカード一枚一枚に一喜一憂する。中国元とタイバーツの両方が使えるらしく、500元(約1万円)や1000バーツ(約4000円)と書かれたチップがテーブルにドンと積まれている。フロアの隅にはスロットマシンやルーレットもあった。
人身売買、麻薬取引、野生生物の違法取引など犯罪の噂が後を絶たないキングスローマンズグループ。そこが運営するカジノとあって私は少し斜に構えていた。だが見る限り普通のカジノだ。少し拍子抜けした。
気になったのはカジノが閑散としていることだ。テーブルが3分の1しか埋まっていない。カジノのスタッフの女の子も暇そうにあくびをしている。
中国政府はゼロコロナ政策も撤廃したし、2023年にはゴールデントライアングル経済特区にボケオ国際空港も開港した。何十億円もかけて開発する経済特区の中心地にもかかわらず、客入りはまばら。カジノは儲かるのか。閑散とした普通のカジノが、この経済特区をより怪しくさせていた。