【ラオス無法地帯を行く⑥】カジノで働くミャンマー人、休日なくても「母国よりマシ」

夜のカポックスターホテル。派手な外観だが、周りはまだ工事中

「ミャンマーより幸せ」

そんなことを考えながら夜のゴールデントライアングル経済特区を歩いていると、左側に白壁の長屋が現れた。中をのぞくと、1つの部屋に2段ベットが4つ置かれ、服、化粧品、食べ物などが散らばっている。生活感たっぷりだ。

明らかにどこかの会社の従業員宿舎だった。ここならゴールデントライアングル経済特区で働く人の話が聞ける。

だが取材をして大丈夫だろうか。私の中に不安がよぎる。

ゴールデントライアングル経済特区は「犯罪の温床」といわれる。ラオス北部の町フエイサイのゲストハウスのオーナーは「あんなところで取材なんかしたら、すぐ捕まって牢屋行きよ」と言っていた。そのうえ無法地帯。何かあっても誰も助けてくれないだろう。

とはいえせっかく来たのに手ぶらで帰れない。なによりここで働く人たちの話が聞きたい。私は意を決して、こっそり敷地の中に足を踏み入れた。

そこには100人規模が泊まれるコの字状の長屋がいくつも並んでいた。性別や出身国によって住む棟が違うようだ。4人部屋もあれば、家族用のフラットもある。見るからにミャンマー人とラオス人が多そう。私はさっそく、近くの人へのインタビューを試みた。

話を聞いたのはミャンマー・マンダレー出身の男性2人。「員工宿舎」といって、キングスローマンズグループが運営するカポックスターホテルやカジノで働く従業員のための集団宿舎に住んでいた。

男性2人はカジノの清掃係と洗濯係。朝の7時から夕方4時まで働き、休日はない。

それでも洗濯係の青年は話す。

「洗濯して毎月1万1000バーツ(約4万4000円)をもらっている。ミャンマーでは頑張って働いても半分以下。休みはないが、それでもここのほうが断然いい」

この青年によると、待遇は実際に良い。初任給は1万1000バーツ(約4万4000円)、6カ月働くとそれが1万5000バーツ(約6万円)に上がる。毎年昇給もある。家賃や光熱費も無料だ。

清掃係の青年が続ける。

「私の妻もここで働いている。月の収入は夫婦合わせて3万バーツ(約12万円)。働き続ければ子どもをいい学校に行かせられるし、親も養える」

条件が良いのはわかった。だが国を捨ててまでなぜ、ゴールデントライアングル経済特区で働くのか。私は彼に尋ねた。すると彼は食い気味に言った。

「ミャンマーは今、国軍のせいで最悪だ。軍政が軍政が続く限りミャンマーに未来はない。国にとどまるよりもゴールデントライアングル経済特区にいるほうが稼げるし、幸せだ」

ミャンマーでは2021年2月に軍事クーデターが起きた。それ以来、国軍がすべての権力を握る。西側諸国が軍事クーデターを批判し、経済制裁を科したこともあって、同国の通貨チャットは38%も下落した。物価は高騰し、仕事はない。庶民の生活は苦しくなるばかり。これに追い打ちをかける形で、2024年の初めに徴兵制も始まった。

生活に苦しむミャンマー人たちは母国を半ば諦め、国外で生きる活路を見出そうとしている。そうした中、待遇も良くミャンマーにも近いゴールデントライアングル経済特区に集まるのもうなづける。

それにしてもキングスローマンズグループの“国境ビジネス”には恐れ入る。経済が低迷する国々の近くに経済特区を作り、安い労働力をかき集める。経済特区では中国で禁止されたカジノを運営し、中国人観光客を呼び込む。

法律の網をかいくぐる国境のマジックとでもいうべきか。中国のこのしたたかさはさすがとしか言いようがない。

カポックスターホテルで働く従業員の宿舎。コの字の棟がいくつも並ぶ

洗濯物が干された宿舎の部屋の入り口。中には2段ベッドが4つ置かれている

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