
祖国を離れるZ世代
キングスローマンズグループの宿舎でのインタビューだったが、特段危険なことはなかった。ミャンマーの青年たちも気さくに話してくれた。まったく動けないわけではなさそうだ。
インタビューを終えた私は宿舎を離れ、メコン川の川岸まで足を伸ばした。そこに現れたのは怪しげな建物。ライトアップされて高級感は漂うが、窓は一切ない。
ここは中国人御用達のKTVだった。KTVとは日本でいうキャバクラのようなところ。女性を指名して横に座らせ、お酒を飲んだりカラオケをしたりする。気に入った女の子がいれば、別の部屋に移動して性行為もできる。
城のようなKTVの中では、ドレスで着飾ったキャバ嬢たちが念入りに化粧をしていた。そこに高級車で乗りつけた中国人がひっきりなしに入っていく。ゴールデントライアングル経済特区は中国人が中国人のために作った歓楽街なのだ、と改めて感じた。
ここから道を挟んですぐ横、メコン川の土手のほうからポップソングが流れてきた。目を向けると、男女の若者10人ほどが集まり酒を飲みながら歌っていた。
彼らはゴールデントライアングル経済特区で働くミャンマー人だった。おそらくまだ20代前半。歌っている彼らの姿を見て私はいたたまれない気持ちになった。
ミャンマーでは2011年以降、民主化が進んだ。Z世代の若者たちは未来に希望をもっていたに違いない。だが軍事クーデターが起き、今や国軍と民主派が対立する内戦状態。将来を失い、生きるために仕方なくゴールデントライアングル経済特区にたどり着いた。そんな彼らにとって気を休めとなるのは、同郷の同世代と一緒に酒を飲み、語り合う時間だけなのかもしれない。
そうこうしているうちに夜の10時を回った。ホテルから遠く離れたところまで来ていた私は帰りの足を探した。だがここは中心地から遠く、タクシーも走っていない。グラブやウーバーなどの配車アプリも使えない。車といえば、KTVから出てくる高級車だけ。
ヒッチハイクを試すが、怪しげな日本人のために高級車が停まるはずもない。レクサス、BMW、アウディが減速することなく、前を通り過ぎていく。
どうしようか困っていた時、小さなトラックが停まった。ミャンマー人が運転していた。「カジノまで連れて行ってくれないか」と英語でお願いすると、彼は笑顔で私をトラックに乗せてくれた。
「チュズティマレ(ありがとう)」
ミャンマー語でお礼を言った私に向けて彼は恥ずかしそうに笑った。(続く)

ゴールデントライアングル経済特区にある高級KTV(キャバクラ)。中国人の男性がひっきりなしに入っていく