【ラオス無法地帯を行く⑧】風俗嬢の取り分は4割、「ここで働く以外に選択肢はない」

激辛鍋を食べる風俗嬢のティップ。彼女は4カ月前からゴールデントライアングル経済特区の置屋で働く

誰が好き好んで働くのよ

「ここで働く以外に選択肢はない」

ティップもティアもこう口をそろえる。彼女たちは人身売買の被害にあって、ここにいるのではない。だが半ば強制的にここで働く。その裏にあるのは貧困だ。

さっきまで眠そうにしていたアンリがいつの間にか目を覚まし、話し始めた。

「実家があるビエンチャンですら毎日働いても月2000バーツ(約8000円)しか得られない。それでどうやってきょうだいを養ったり、親を助けたりできるの。私は家族を支えるために学校を辞めてここにきた。今は毎月1万バーツ(約4万円)を実家に仕送りしている」

ティップに、きみも同じような状況なのか、と私は尋ねた。すると怒ったような返事が返ってきた。

「当たり前じゃない。だれが好き好んでこんなところで働くの。家族のために、私が稼ぐしかないの。夢なんて見ていられない」

アンリは中国語を流暢に話す。聞かれた質問にもしっかりと答えるところを見るかぎり、優秀な生徒だったに違いない。またティップも自分の意見をはっきり言える強い女性だ。

そんな彼女たちがなぜ、将来を諦めてゴールデントライアングル経済特区に来なければならなかったのか。“国ガチャ”“親ガチャ”に外れたという言葉で片づけてしまっていいのか。現実を目の前に突きつけられると言葉が出ない。

経済格差が犯罪を生む

置屋でのインタビューを終えた私は、すぐ近くにある中華街で四川料理を堪能し、それから入管を通ってタイに戻ってきた。時間はすでに夕方の5時。太陽はタイ側に傾いていた。

私はチェンライに戻る前、タイの入管のすぐ近くにあるゴールデントライアングル公園に立ち寄った。ここはタイ、ラオス、ミャンマーの3カ国の国境であるメコン川とルアック川が交わるポイント。高さ10メートルはありそうな黄金のブッダ像が園内にはどっしり座っている。

高台に上ってメコン川を望むと、右にラオス、左にミャンマーが広がっていた。100キロメートル先には中国がある。

公園からは中国との国境は見えない。だがラオス側に目をやれば中国がすぐそこまで迫っていることを実感する。ホテルやマンションが建ち並び、その隣では4本の大きなクレーンがせわしなく動いている。ビル群の真ん中には、キングスローマンズグループが経営する黄金に輝くカポックスターホテル。

この三角地帯(ゴールデントライアングル)で繰り広げられているのは、売春やスキャミングといった違法ビジネスだ。それを成り立たせているのは、中国と、ミャンマーやラオスといったゴールデントライアングル諸国の経済格差にほかならない。

風俗嬢のアンリやティップ、オンライン詐欺師だったラオも、自分たちがすることが正しいとは思っていない。望んでやっているわけでもない。だが家族のため、生活のため、やるしかなかったのだ。

半世紀前、貧しさから農民が始めたケシ栽培。それが今、売春やスキャミングに形を変えて、ゴールデントライアングル経済特区で繰り広げられている。(終わり)

タイのチェンセーンにあるゴールデントライアングル公園から見た景色。左にミャンマー、右にラオスが広がり、その先に中国がある

チェンセーンのゴールデントライアングル公園にどっしり座る黄金のブッダ像。近くにはアヘン博物館もある

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