5人に1人が感染する「結核」、途上国出身者を都内で診療する日本人医師がいた!

カンボジアでWHOが実施したWHOの第3回有病率調査。ヘルスボランティアらと家庭訪問をする内科医の高柳喜代子さん(左から3人目)

「結核の患者は全世界に16億人いる。うち9割が途上国出身者」。そう語るのは、18年にわたって在日外国人の結核患者を診察・治療してきた内科医、高柳喜代子さんだ。日本では結核患者のおよそ1割を外国人が占めるが、そのほとんどは途上国出身者だ。

過去の病気ではない

世界の3大感染症といわれる「結核」「エイズ」「マラリア」のうち感染者が最も多いのが結核だ。世界保健機関(WHO)の結核報告書によると、2022年時点で世界人口の2割が感染している。うち新規感染者が1060万人。2022年の死者は推定160万人。20秒に1人が死亡する計算だ。

高柳さんは「結核は過去の病気ではない」と断言する。

世界の結核患者を国別にみると、およそ半数を占めるのが東南アジアだ。罹患率(人口10万人あたりの患者数)が高いのは650人のフィリピンを筆頭に、ミャンマー360人、インドネシア354人、カンボジア320人、ベトナム173人と続く。

結核とは、結核菌が主に肺に入り炎症を起こす病気だ。結核患者の咳などで結核菌が飛散し、周りの人がそれを吸い込み空気感染する。感染しても発症するのは1~2割。しかもすぐには発症しないため、本人も知らないうちに感染が広がってしまう。

結核の治療期間は6~9カ月。この間、毎日欠かさず薬を飲まなければならない。発熱や吐き気などの副作用が伴う場合もあるが、薬を飲み忘れたり服用を止めたりすると薬剤耐性がついてしまう。

近年大きな問題となっているのは、薬が効かなくなる「超多剤耐性結核」だ。とりわけ抗結核薬であるイソニアジド、リファンピシンのどちらも効かない「多剤耐性結核」をわずらうと治療は困難を極めるという。

あるベトナム人の女性は18歳のとき、脳の結核にかかり生死をさまよった。意識は回復したものの、視力を失い手足も不自由に。生存率がわずか2%という結核性髄膜炎と診断される。その後、多剤耐性結核を発症。2年以上にわたる多剤耐性結核の治療に耐えぬき一命は取り留めたが、予定していた大学進学を果たせなかった。

高柳さんは「結核を完治させるには、患者をなるべく早く発見することが重要だ」と強調する。知らないうちに結核菌をばらまくだけでなく、多剤耐性結核になると治療期間が長いうえに治癒率が下がる。さらに薬代も高額になるからだ。

公益財団法人結核予防会編「結核の統計2023」によると、日本の結核患者の約1割を外国人が占める。年齢は10~30代が多い

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