5人に1人が感染する「結核」、途上国出身者を都内で診療する日本人医師がいた!

カンボジアでWHOが実施したWHOの第3回有病率調査。ヘルスボランティアらと家庭訪問をする内科医の高柳喜代子さん(左から3人目)

カンボジアは20年で半減

結核患者を劇的に減らすのに成功した国がある。カンボジアだ。結核の罹患率はいまもアジアで4番目に高い国だが、1990年に1258人だった罹患率は2010年には660人まで半減した。

この実現に寄与したのが国際社会だ。WHOは全国規模での診断と治療の体制を整え、国際協力機構(JICA)は結核の専門家を派遣。カンボジア政府が国を挙げて進めた結核対策プロジェクト(NTP)をバックアップした。

カンボジアの結核対策が成功したのには大きく2つの理由がある。

1つめは患者を確実に発見できるようにしたこと。集団検診で採取した痰をスライド標本にし、結核ラボに搬送。顕微鏡で結核菌を見つける体制を整えた。結核患者を確実に発見するだけでなく、同時に薬の耐性も調べるので有効な治療薬も確認できる。

2つめは「直接服薬確認療法」(DOTS)を普及させたこと。DOTSとは、患者が適切に薬を服用するところを医療従事者が目の前で確認し、治癒するまで経過を観察する戦略をいう。DOTSの普及は治療の完了率アップにつながった。この取り組みについてWHOは「カンボジアは結核による健康危機を成功事例に変えた」と評価している。

AI診断システムが普及

高柳さんはこの5月、WHOが実施する第3回有病率調査を視察しにカンボジアの首都プノンペンを訪れた。

14年前の2010年の第2回調査のときと比べて驚いたのは、検診技術が格段に進んでいたことだ。機材のポータブル化も進んでいた。

集団検診では、結核が陰性か陽性かを迅速に確認できるPCR検査(核酸増幅検査)を採用するように。また胸部レントゲン機器はバックパック型で背負えるサイズになっていた。「かつてはレントゲンバスでいろんなところに出張していたのが嘘のように感じた」(高柳さん)。いまや、バスが通れない山奥の村でも検診できる。

デジタル化も進んだ。胸部レントゲンの画像データはすぐさま医師のパソコンへ送られる。医師は、肺の影を自動的に教えてくれるAI診断を利用しながらスピーディーに読影。タブレットを使ってカルテに入力すると、問診結果が調査本部へ転送される。レントゲン画像は海外にいる医師も送られ、高柳さんは日本から読影に協力しているという。

地域のヘルスボランティアも活躍していた。彼らの役割は、初期症状のある患者を保健所や病院へつなげることだ。「検診の前日にヘルスボランティアが受診する家庭を一軒一軒訪問して結核検診の目的、内容を説明していた。暑い中の活動に頭の下がる思いがした」(高柳さん)

コンパクトなバックパック型で運びやすくなったレントゲン機器。内臓バッテリーがあるため、僻地でも電源を確保する必要がない。ただ重さは付属品を含めるとおよそ30キログラム

遮蔽板を隔てて、レントゲンの撮影ボタンを押す検査技師。屋外でも屋内でも検診できるようになった

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