パレスチナ自治区ヨルダン川西岸とイスラエル国内を中東を専門とするジャーナリストの川上泰徳さんが歩いて取材し、撮影したドキュメンタリーの上映会とトークショーが10月12日から7回にわたって東京・吉祥寺で開かれた。川上さんが取材した、兵役を拒否する予定のイスラエルの若者のひとりは「兵役の拒否は普通の感覚。人間らしく生きようと思ったら虐殺はできない」と語ったという。
上映会のタイトルは「“壁”の外と内: パレスチナ・イスラエル現地最新報告会」(予告編はこちら)。2024年7〜8月に川上さんが取材したところはいずれも大手メディアが報道しない町や村。戦闘のようすや死者数ではなく、日々の暮らしに着目して、ひとりひとりから話を聞きたい、との思いに駆られたからだ。
「パレスチナは悪」と偏向報道
「人質を戻せ。いま停戦合意を!」。パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスからの人質解放を求めるイスラエル人のデモがこの夏、イスラエル国内で起きた。このデモを撮影した川上さんは「戦争(パレスチナを攻撃すること)に反対する声はなかった。分離壁の向こう(ガザ)にいるパレスチナ人の命なんてデモの参加者らは気にしない」と語る。
その理由のひとつが、イスラエルメディアの偏った報道だ。川上さんは、独立系メディア「+972マガジン」を立ち上げたユダヤ系イスラエル人のハガイ・マタルさんを取材。このジャーナリストは「イスラエルのメディアは、パレスチナ人についての情報を記者が発信することを妨害している」と明かしたという。
マタルさんはまた、イスラエル人の記者が集まる会議で、ある記者が会場に問いかけた質問について語った。質問は、アラブ人(パレスチナ人)が被害者となった事件を取り上げることを、新聞社やテレビ局から拒否された経験があるか。約9割の記者が「ある」と答えた。
マタルさんによると、イスラエルのメディアは日常的に「パレスチナ人をテロリストとしてしか」報道しないため、イスラエル国民の大半はガザで起きていることも、イスラエル国軍がパレスチナ人を虐殺していることも知らない。むしろ軍は国民をパレスチナのテロリストから守ってくれる、と信じている。
マタルさんがジャーナリストになったのは、高校を卒業した後に兵役を拒否したことがきっかけだ。6回の収監を繰り返しながら、マタルさんは「イスラエルによる占領反対」を訴えた。そのため10カ月に及ぶ裁判で有罪判決になり、1年間服役。 その裁判がメディアに取り上げられ、書籍化、映画化された後、彼はジャーナリストになった。