「キクユ族は帰れ」、英国の植民地政策で分断されたケニア社会はどこへ向かうのか

マサイ村に住むマサイ族の人たち

ケニアにはいまだに、民族間の差別や偏見が根強く残っている。JICA海外協力隊員として私が活動するケニア南部のマクエニ県ンジウ村の高校で、唯一のキクユ族の教師であるチェゲさん(37歳)はこの学校に赴任した当初、「『キクユ族の地域に帰れ』と同僚のカンバ族の教師から言われた」と明かす。この問題を私なりに考えてみたい。

「カレンジン族は怠け者が多い」

2023年1月にケニアに来て以来、私はずっとこの国の民族間の対立について気になっている。今でも頭から離れないのは、首都ナイロビで出会ったキクユ族のタクシー運転手(31歳)が発した言葉だ。

「英国が支配した時代に僕らケニア人を42の民族に分け、争わせて団結させないようにした。その名残で今も他民族を襲撃する事件が起きている。僕らはいまだにひとつになれず、支配されているんだ」

それぞれの民族が異なる民族に対して偏見をもっているなと実感した出来事は、私の経験でもいくつかある。ケニア西部にある第4の都市エルドレットはカレンジン族が多い街。この街の市役所に勤めるカレンジン族の男性は「他の部族は僕たちより劣っている。僕たちはチャンピオンだ」と初対面のあいさつで私に胸を張った。

ケニア中部にある第5の都市ナクルを旅行し、たまたまローカルレストランに入ったときのこと。コックとして働くルヤ族のエマさん(32歳)は「カレンジン族は怠け者が多い。仕事中でもティックトックやユーチューブばかり見て仕事しない」とこぼす。ちなみにナクルの人口の7割を占めるのがキクユ族。加えてカレンジン族やルヤ族も暮らす多民族の街だ。

ンジウ村で私が毎日通うローカルレストランに勤めるカンバ族の店員は「キクユ族はお金に卑しい。お金をもらえないか、といつも様子をうかがっている」と陰口をたたく。

対照的に、ナイロビ近郊のキアンブ県に住むキクユ族の女性(33歳)は「ナイロビが発展しているのはキクユ族のおかげ。他の民族はここまでできない。カンバ族は向上心がないから彼らが多い(ケニア南部の)キトゥイ県、マチャコス県、マクエニ県は発展しないんだ」とあざ笑う。

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