「キクユ族は帰れ」、英国の植民地政策で分断されたケニア社会はどこへ向かうのか

マサイ村に住むマサイ族の人たち

民族間の交流を断つ政策に

「あなたは何族?」「◯◯族についてどう思う?」といった話を嫌うケニア人もいる。ナイロビのタクシー運転手は「民族は関係ない。みんな同じケニア人だ。民族という考えが僕らをいまだに分断させている」と主張する。ちなみにこの運転手は最後まで自分の民族を明かさなかった。

2022年に就任したルト大統領(カレンジン族)は、公立校の教師はその地域の出身者を配置する、という政策に変えた。目的は民族間の交流を断つことだという。対照的に、ケニヤッタ前大統領(キクユ族)は異なる民族の教師を全国に配置し、「ケニアをひとつの束にする」と語っていた。チェゲさんは「民族間の対立をなくす大切な一歩だったのに残念。民族ごとに分けたら偏見は再び助長され、民族間の溝が深まるのでは」と懸念する。

チェゲさんが教師になったのは、高校時代に出会った自分の民族とは別の民族の先生のおかげだという。

「私はかつて、キクユ族以外の民族は怠惰でつまらない人が多いと思っていた。だけど私が高校生のときに出会ったカンバ族とカレンジン族の先生はユニーク。印象はガラリと変わった。民族は関係ない。今度は私がそれを生徒たちに伝える番。ケニアが“ひとつの国”として独立したと言える日がいつかくるよう、私たちケニア人はひとつだと生徒たちに話していきたい」

民族は多くのケニア人にとってアイデンティティの一部だ。しかし「あいつは◯◯族だから」と見下し、情報を共有しない場面に私は何度も遭遇した。とはいえ、私がカンバ族の青年や子ども、高齢者にカンバ語で話しかけると大喜びされる。

ケニアがひとつの国として歩み出すために私たちは何ができるのか。それを問い続けたい。

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