2025年に注目したい、「またトラ」から考える世界の移民問題

パナマとコロンビアの間に横たわる密林地帯「ダリエン」を命懸けで越えるベネズエラ難民ら。彼らの最終目的地は米国だ(写真はベネズエラの「ラジオ・フェ・イ・アレグリア・ノーティシアス」からパナマとコロンビアの間に横たわる密林地帯「ダリエン」を命懸けで越えるベネズエラ難民ら。彼らの最終目的地は米国だ(写真はベネズエラの「ラジオ・フェ・イ・アレグリア・ノーティシアス」から

農業・漁業労働者の4割が移民

嫌われる移民たちですが、プラスの効果はないのでしょうか。

消費の拡大、税収の増加、新たな領域のビジネスの創出もありますが、まず挙げられるのが「労働力」です。米国人がやりたがらない仕事をやってくれます。代表的な分野は保健医療、建設、農業など。

米国の移民(外国生まれのアメリカ居住者)が就く仕事をみると、その18%が「教育、保健医療」でした。これ以外だと、「専門職、ビジネスサービス」15%、「建設」11%など。

次に米国全体の労働者のシェアをみてみましょう。「農業、漁業、林業」の分野では4割が移民です。「フードサービス」は1割。

先の大統領選の前に米国の調査会社ピューリサーチが実施した興味深い調査結果をひとつ紹介します。

米国人がやりたがらない仕事を「不法移民」は代替してくれると思うか、との問いに対して、民主党ハリス氏の支持者は「はい」が90%。対照的に共和党トランプ氏の支持者は59%にとどまりました。

移民に対する寛容度はやはり、民主党支持者のほうが高いです。ですが現実は、大統領選で勝利を収めたのは、移民への姿勢がより厳しい共和党のトランプ氏だったのは周知のとおりです。

英国はルワンダへの移民移送に失敗

移民が押し寄せているのは米国だけではありません。今度は世界の動向に目を移してみましょう。

移民(不法移民だけではなく)の数は米国が5200万以上で世界トップ。アメリカの人口の15%を占めます。すごいですね。不法移民に限ると1100万人です。

2位はドイツで1600万人。全人口の19%弱。この比率は米国を凌ぎます。いまや移民大国です。

3位がサウジアラビアで1400万人。人口の39%。出稼ぎ労働者ですね。

4位はロシア、1100万人、8%弱。5位は英国、900万、14%。アラブ首長国連邦(UAE)も900万人です。

ここで英国の話をしましょう。

英国でも近年、難民が急激に増えています。難民申請者の数は22年で8万9000人を超えました。

英国は島国ですので、その半数近くは、小さなボートに乗ってドーバー海峡を渡って英国への不法入国を試みます。対岸のフランスからの距離は34キロメートル。東京湾アクアラインが15.1キロなので、その倍ちょっとです。

24年は12月1日までに3万3000人以上がドーバー海峡を小さなボートで渡りました。これは英国の難民申請者のおよそ4分の1を占めます。国籍をみると、多いのはアフガニスタン、イラン、シリア、ベトナム、エリトリア、イラク、トルコ、スーダンなど。

英政府も、沿岸警備を強化すべきか、渡航者を保護すべきか、対応に苦慮しています。

そこで英政府がぶち上げたのが、不法移民をアフリカのルワンダに移送しようという計画です。これは世界で注目を集めました。

ところが2022年6月、不法移民をルワンダへ空路で移送する第1便が、出発直前にキャンセルされました。欧州人権裁判所から移送を差し止めるべきとの判断を受けたからです。

さらに英国の最高裁判所は2023年11月、ルワンダを「安全な第三国」と見なすことはできないと判断。この計画は中止となりました。

ルワンダ政府は言うまでもなく、不法移民を無償では受け入れません。英政府は先だって2億4000万ポンド(約460億円)をルワンダ政府に払っていました。送り込まれる移民が暮らす家はルワンダの首都キガリに建設中だったようで、労働者への賃金も払われていました。ルワンダ政府は結局、460億円の返金を拒否しました。

実は、移民をルワンダに運ぼうとしたのは英国が最初ではありません。デンマークは21年、それを可能にする法律を可決しました。ですが実行されなかったという経緯があります。

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