ベナンの村に嫁いだ日本人女性、アジャ語・異文化・ワンオペ育児 すべての試練は成長の糧

エケ一家と、ベナンの国教ブードゥー教の最高指導者(シェフ)の男性(一番右)。ボナさん(後列中央)の家族はシェフの家系

「西アフリカのベナンに移住する前は良いイメージがあった。でも甘かった」。こう語るのは、ベナン人の夫ボナ・エケさんが育った南西部のトタ村に2人の息子と住む日本人女性、エケ陽子さんだ。現地語のアジャ語はわからず、モノはすぐ壊れ、ボナさんは家を空けがちで常時ワンオペ育児‥‥。こうした試練を陽子さんは自身の「レベルアップのチャンス」ととらえている。

第2夫人として結婚

陽子さんは2015年、第2夫人としてボナさんと結婚した。ベナンの法律は一夫多妻制を禁じているが、ベナンの村ではよくあることだという。

ボナさんとは、陽子さんがJICA海外協力隊員としてベナンに派遣中に知りあった。日本に帰国した後に結婚。日本に一緒に約8年住み、2人の息子を授かった。開放的な環境で子育てをしたいと考え、2023年3月にトタ村に移り住んだ。

だが移住前の良いイメージとはまったく違った。日々の暮らしは苦労の連続。とりわけ想定外だったのは、協力隊時代はベナンの生活を常にサポートしてくれたボナさんが移住後は家を空けてばかりいることだ。

一夫多妻制にも見てとれるように、ベナンは男性優位の社会だ。家庭では男性の言うことが絶対。数世代前の日本を思い起こさせる。陽子さんの周りのベナン人女性も、夫が自分以外の妻をもつことを「夫が決めたことだから仕方ない」と受け入れているという。

家庭内で強権的に振る舞う一方で、ベナンの男性は友だちと出かけたり、他の夫人や恋人のところに行ったりと、家を空けることが多い。ボナさんも、ベナンに帰ってすぐは久しぶりの故郷に舞い上がり、友だちと数カ月も遊び歩いたという。「(そうした夫の行動は)ベナンでは普通のこと。他の奥さんたちも誰もそれに怒らない」と陽子さんは語る。

第1夫人の長女と同居

現地の言語も文化も十分にわからない陽子さんにとって、夫の不在による苦労は大きかった。「移住当初はベナンでの振る舞い方や悩みについてボナのアドバイスが欲しかった。でも慣れるまで我慢するか、自分で解決するしかなかった」(陽子さん)

陽子さんが戸惑ったのは、ベナン人の距離感の近さだ。良くも悪くも、知人と赤の他人、友だちと家族などの区別が薄い。「知り合いが家に勝手に入って来て、いびきをかいて寝ていたり、スマホを充電していたりする。でもそれがベナンの文化なら、注意していいのかわからない」

ベナン流の家族のあり方にも距離感の近さを思い知った。陽子さんが知らないうちに、移住初日からボナさんの第1夫人の14歳の長女と一緒に暮らすことになっていたのだ。ベナンでは第1夫人の子どもが第2夫人の家に住むといった子どもの入れ替えはよくあるという。

ボナさんは、家事や育児を長女が手伝うと思っていたが、期待外れだった。陽子さんは「自分の家で散々手伝わされたのだから、こっちに来てやるわけがない。ストレスしかたまらなかった」と振り返る。

「鏡も見たくないくらいにやつれたし、ふけた。(もとからやせ型なのに)ストレスで体重は6キロも落ちた」。異文化に適応するストレスに加え、家計のやりくりと2人の息子のワンオペ育児で陽子さんは過労状態に。ついには熱や吐き気で動けなくなり、地元の病院に5日間入院した。

陽子さんたちが暮らす家の屋上から眺める夕日。丘のうえに建つため村を見下ろせる

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