ベナンの村に嫁いだ日本人女性、アジャ語・異文化・ワンオペ育児 すべての試練は成長の糧

エケ一家と、ベナンの国教ブードゥー教の最高指導者(シェフ)の男性(一番右)。ボナさん(後列中央)の家族はシェフの家系

ベナン人の精神が宿る!

こうした試練を経て、陽子さんは「頼れるのは自分のみ」と考えることにした。「やったろかい!」の精神で、試練を通して自分がレベルアップしていく達成感を楽しむ。また、自宅への勝手な立ち入りを禁じるといった「割り切り」も覚えた。

ベナンではモノがよく壊れる。これもレベルアップのチャンスととらえ、自分で修理することに。実際に直せたときは「ママすごいじゃん!」と息子に褒められ、思わずガッツポーズ。これまでに日本で買った息子の家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」や、ベナンの必需品である扇風機の修理に成功した。

壊れるのは家庭内のモノだけではない。2024年11月には、パイプのトラブルで2週間水が止まった。「最初は水が出ないことにイライラした。でも1週間で慣れた」と語る陽子さん。シャワーや洗い物などあらゆる場面で、いかに少ない水で生活できるかを極めた。

こうした心境の変化に陽子さんは、「自分にもベナン人の精神が宿り始めたのかも」と成長をかみしめる。食べ物もお金も十分にない中で、「ないものはない」とどこか達観したように見えるベナン人に近づきつつあるのかもしれない。

一方で、水のトラブルを巡って、ベナン社会の男性優位性を改めて思い知った。女性たちが修理を頼んでものらりくらりと取り付く島もなかったなかった配管工が、ボナさんが帰って来て一言頼んだらすぐに修理を始めたのだ。

「周りの女性は水が出て喜んでいたけど、私はモヤモヤした。なんで女性が言っても動かなかったくせに、男性が言ったらすぐ動くのか」。エケさんは配管工を問い詰めたが、と同時に、水トラブルの解決を素直に喜べない自分が恥ずかしくもなったという。

ベナンはもう私の家

試練が続いても陽子さんはベナンが好きだ。アフリカらしいゆったりとした時間と開放感の中で「子どもたちが駆け回って遊んでいるようすは、何時間でもニヤニヤしながら見ていられる。やっぱりここにきて幸せ」と語る。

とはいえ普段はアジャ語の壁もあり、どこまで本音で話せているかはわからない。

一夫多妻制について、近所の女性同士で世間話をしていたときのこと。「夫が決めたことだから」と諦めていた女性が突如「夫がこれ以上妻をもつなんて、絶対嫌!」と陽子さんに本心を打ち明けてくれたという。

ベナン人の思いや考えに踏み込めるようになってきたと手ごたえを感じる陽子さん。「ベナンはもう私の家」と言い切る。アジャ語を習得して、「向かいの奥さんたちと一緒におしゃべりで盛り上がりたい」。ベナン色にすでに染まった息子たちを陽子さんも追いかける。

日本から持ってきたニンテンドースイッチを家で楽しむ息子。故障していたが、陽子さんがそれを直してからは再び夢中に。ゲーム機の外への持ち出しは家族のルールで禁止している

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