コンゴ盆地から小さな狩猟採集民ピグミー来日、過剰な森林開発に警鐘

ピグミーの森での生活のようす(1989年に撮影)。当時はほとんどお金を持たなかったという(写真提供:西原智昭さん)

外貨欲しくて国土を国有化

「私たちの森や動物はどうなるの?」。西原さんがコンゴ共和国の森で調査をしていたとき、一緒にいたピグミーのひとりが、こうつぶやいたという。この言葉の背景にあるのは、急速に進む資源開発だ。

コンゴ盆地には世界有数の豊かな森林がある。その地下にはスマートフォンやパソコンを作るのに必要な希少金属(レアメタル)が眠る。

資源開発にはコンゴ共和国政府も前向きだった。コンゴ共和国は1960年に独立した若い国。「資源開発による外貨の獲得を狙って、国土をすべて国有化した」(西原さん)。多国籍企業は、政府が許可すれば開発に着手できるようになった。

しかし現地の先住民の意見は聞かれない。2007年に採択され、日本も批准した「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の後もそれは変わらなかった。アンボロさんとアベアさんも森を追われ、農耕民の村の近くに住むように。コンゴ共和国政府が主導する先住民定住化政策のためだ。

森から離れたことで、若い世代の間では、ピグミーが受け継いできた能力や技術が失われつつある。それを示す出来事があった。

その日は20代の若いピグミー2人が西原さんを先導して森を歩いた。10メートルほど先に野生のニシゴリラを見つけ、みんなで喜んで観察。近づいてみようと足を進めると、後方のアンボロさんがみんなを制した。「あんまりずんずん進むな。茂みにゾウがいる」。そのまま進んだら、襲われていたかもしれなかったという。

救世主はエコツーリズム?

伝統や文化、言語も失われつつある。資源開発が原因で、こうした取り返しのつかない消失が起きていることに、西原さんは警鐘を鳴らす。

「人類がピグミーのような森林生活に戻るのは無理。(森林を守るために)紙を使わない生活にも戻れない。デジタル化しても鉱物資源の開発のために森林を犠牲にするのは変わらない。いかに森林開発と生物多様性・先住民族への社会的配慮を両立させるか。それを考えないといけない」(西原さん)

コンゴ共和国は資源開発に代わる産業として、豊かな自然を観光資源とするエコツーリズムに取り組む。野生のゴリラに会いに行くツアーなどでは、ピグミーが案内役として活躍する。ゴリラを追跡できるのはピグミーだけだ。

FSC認証制度という仕組みもある。「認証された林業者が(木を運び出すトラック用に)拓いた道にはゴリラが出てくることもある。普通の(認証を受けていない)林業者が作った道では野生動物なんて一切いない」と西原さんは制度の効果を強調。厳しい検問所を設け、密猟者や違法な資源開発を行う者は入れないように管理している成果だ。

FSC認証を受けた林業者はさらに、ピグミーをはじめとする先住民が森に入れる期間も設ける。先住民向けの学校も作った。カリキュラムの一部に森林生活を組み込み、授業でも先住民の言語を使う。医療施設にかかるのも先住民は無料だ。「FSC認証を受けた商品を購入することは、ピグミーの人権保障など社会貢献につながる。これが日本にいても私たちにできること」と西原さんはイベントを締めくくった。

ピグミーは、中部アフリカの熱帯林に広く分布する狩猟採集民族の総称。男性でも平均150センチメートルほどという低身長が特徴。身分や貧富の差がない平等主義的な社会を営むことで知られる。

西原さんによると、ピグミーという単語はアフリカがまだ暗黒大陸と呼ばれていた時代にヨーロッパ人がつけた蔑称。だが同じ特徴を持つ集団を総称する単語はほかになく、また彼らもピグミーと自称するため、「今回のイベントではピグミーという言葉を使うということをご了承願いたい」と西原さんは説明した。

2024年12月21日に札幌で開催されたトークショーのようす。左からマロンガさん(コンゴ共和国出身の野生動物研究家)、アベアさん、アンボロさん、西原智昭さん(写真提供:井口康弘さん)

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