シリアの子どもたちへの教育支援を手がけるNPO法人ピースオブシリアが2024年12月17日、アサド政権が崩壊して初めての活動説明会をオンラインで開催した。登壇した代表理事の中野貴行さんとシリア人スタッフのアナスさんは「(政権崩壊を受けて)トルコやレバノン、欧州に逃れていたシリア難民の帰還が始まりつつある。今こそ、未来のための教育と心のケアが必要だ」と訴えた。
トルコ語のほうが得意
「(アサド政権崩壊を)ほとんどのシリア人は喜んでいる。ただこれで落ち着くとは思っていない。シリアの子どもたちが希望をもてることを目指し、ピースオブシリアは活動していく」。半世紀以上にわたったアサド父子2代による独裁政権の崩壊を受けて、中野さんはこう語る。
ピースオブシリアのシリア国内での活動地域は、アサド政権を倒した反体制派「シャーム解放機構(HTS)」が支配していた北西部。アサド政権の迫害から逃れてきた子どもが主な支援対象だ。また国外では隣国のトルコで、シリア難民の子どもが週末に通う補習校を運営する。
シリア内戦が始まって13年以上。トルコの補習校に通う6~15歳の子どもおよそ200人の半数はトルコ生まれだ。補習校ではもともと、トルコ語の授業やトルコでの生活に慣れるためのアクティビティ(交流会)を行っていた。だがシリアを知らない世代である彼らはトルコ語のほうが得意。母国語のアラビア語の読み書きができない子どもも増えている。
「難民に対する差別やいじめを恐れて、『自分はトルコ人だ』と名乗り、トルコに溶け込もうとする子どももいる。だが難民であるシリア人の立場は不安定だ。いつまでもトルコに住める保証はない」(中野さん)。シリアに“いつか”帰ったとき、子どもたちがスムーズに生活できるよう、ピースオブシリアはアラビア語の授業を始めた。
だがその“いつか”は急転直下やってきた。アサド政権の突然の崩壊を契機にシリア難民の帰還が始まった。中野さんは「算数や交流会よりも今はとにかくアラビア語」と強調し、アナスさんも「アラビア語の授業は今後、シリア国内でも必要になる」と語る。