バングラ政府への抗議デモで負傷した受験生を救え、映像授業のe-Educationが生徒倍増へ

e-Educationが提供する映像授業で学ぶバングラデシュの農村の高校生

誰にも学びを奪わせない

政変の影響で、都市と農村の教育格差がさらに広がったことは確実だ。e-Educationの現地スタッフのひとりは「農村の学校は2カ月半休校となった。デモが起きた時期も、(日本のセンター試験にあたる)高校卒業試験(HSC)の最中だった。残りの試験は延期になり、いつ実施されるかわからない」と言う。

ただ政変は教育に悪影響を与えただけではない。良い面もある。

ハシナ氏の辞任をきっかけに、教育のカリキュラムが変更されたという。例えばダッカ大学の試験では必ず「ハシナ首相の偉業を英語で100ワード以内で答えなさい」という英作文の問題が出ていたが、「次の受験からこの問題はなくなるだろう。今までは教育と政治が紐付いていた」と三輪さんは話す。

政変の混乱に巻き込まれたひとりが高校生のアミンさん(18歳)だ。体が弱った母の代わりに、アミンさんは家庭教師として週7日、中学生2人と小学生4人に勉強を教え、家計を支えていた。だが反政府デモが起きた結果、母から「外に出ないで」と懇願され、家庭教師の仕事ができなくなった。アミンさんが通う高校も閉鎖した。 

アミンさんは一度だけ母の反対を押し切り、デモへ参加するため外に出たことがある。だが家の近くで爆発が起き、母の言う通りに家にとどまることを決めた。

しかし命をかけて社会を変えようとする若者がいるのも事実だ。アミンさんは「私はどうすればいいの」と悩んだ。「今のままだと、大学受験のために数年頑張ってきたことが、政治の影響ですべて無駄になってしまう」と不安が募ったという。

そう悩んでいたアミンさんは高校の先輩の紹介でe-Educationと出会った。アミンさんは現在、映像授業を無料で受講している。反政府デモが落ち着き、家庭教師も再開。アミンさんは仕事とのバランスを取りながら勉強している。

アミンさんは映像授業だけでなく、勉強や将来の悩みを大学生の家庭教師にオンラインで相談している。映像授業に加えてe-Educationが手がける「オンライン家庭教師事業」の一環だ。2020年に始まったコロナ禍でアルバイトができなくなった都市の大学生と、学校に行けない農村の高校生をつなぐプロジェクトだという。

「今は精神的に勉強に向き合うことができない。それでも弁護士になる夢を叶えたい私にとって、彼らはありがたい存在だ」(アミンさん)

オンラインで家庭教師を務める大学生(左)とe-Educationの元生徒(右)

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