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元人権活動家のミャンマー人、トージー氏(仮名、51)は2022年7月、ミャンマーの反軍政デモに参加したことで逮捕状が出たためにタイに逃れてきた。今は、民主化運動への支援を目的とするチェンマイにある雑貨店で最低賃金レベル(月給8000バーツ=約3万5000円)で働く。時には一日一食の生活を余儀なくされるが、それでも母国の国内避難民の生活を支援しようと毎月の送金を欠かさない。
ミャンマー民主化運動にタイ人興味なし
雑貨店の名称は「ゴールデンランド」だ。この店ではミャンマー国内避難民が制作したハンディクラフトや紛争地の周辺で栽培されたコーヒーなどを売る。売り上げの一部は軍政下で苦しむミャンマー人を支援する団体などに寄付される。
トージー氏はここで店頭に立ち、商品の作られた背景や、商品に書かれているメッセージの意味を顧客に説明する。日給は420バーツ(約1900円)。チェンマイの法定最低賃金380バーツ(約1720円)をわずかに上回る金額だ。
物価の安いチェンマイといえども、「週5日働いて月収8000バーツ(約3万6000円)は生活に十分ではない」とトージー氏は言う。ピンクカード(タイの一時滞在許可証)の更新費用が毎年2万~2万5000バーツ(約9万円~約11万3000円)かかるので貯蓄も必要だ。このため実質毎月6000バーツ(約2万7000円)で生活をしなければならない。しかもここから毎月3000バーツ(約1万3500円)の家賃と1000バーツ(約4500円)の光熱水費を除くと手元に残るのはわずか2000バーツ(約9000円)だ。
捕まることを恐れて暮らすトージー氏は、自分の生活も決して楽ではないが、民主化運動の支援を続けている。少ない稼ぎの中から「(シェルター生活を余儀なくされている)国内避難民が教育と医療を受けられるよう、そして民主化のために戦う仲間のために毎月最低1000バーツ(約4500円)を送金している」という。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると2025年2月11日現在、ミャンマーの国内避難民の数は352万9900人。またミャンマーの人権団体・政治犯支援協会(AAPP)によれば、軍事政権の弾圧を受けて死亡した民主活動家や市民の数は2月12日現在で6286人に達する。
軍政の弾圧から逃がれたり、徴兵を嫌ったりしてタイに住むミャンマー人は多い。タイ政府への登録ベースで約500万人。未登録者を含めるとその数は800万人以上ともいわれる。タイ人の人口は約6500万人だから1割前後を占める計算だ。安い労働力として雇用されるミャンマー人はタイ経済にとって不可欠な存在にもかかわらず、ミャンマー人のことを快く思わないタイ人もいるという。
ミャンマーでは弾圧による市民の死者が増え続けている。国軍による村への爆撃も続く。「なのにミャンマーの民主化運動に関心を寄せるタイ人は少ない」とトージー氏。「タイ人たちは自由な暮らしをしており、自分たちには関係がないと思っているようだ。タイもミャンマーと同じく軍政下(2014年のクーデターで軍政が誕生して以来、現在の政権に至るまで軍の強い影響を受けている)にあるのに、問題だと感じていないようだ」
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チェンマイ郊外にある民主化支援の雑貨店「ゴールデンランド」。トージー氏はこの店頭に立って、顧客への商品説明を通してミャンマーの現状を伝える