職務をボイコットしたミャンマー人の元公務員、支援する側から「される側」へ

ピエ氏(右)。「CDMに参加したミャンマー人」だから強烈な性格の持ち主かと思いきや、とつとつと話す温厚な青年だった

かつては「支援する側」にいたが、いまは「支援される側」に変わったミャンマー人がタイのチェンマイにいる。ミャンマー人の元公務員であるピエ氏(仮名、33)だ。チェンマイで仕事はしないのかと尋ねると「タイ語はできないし、勉強しようとしたけど難しいし」と仕事に就かないことを気にもとめていない様子だ。

ミャンマーにいたころピエ氏は、公務員が職務をボイコットする「市民的不服従運動」(CDM)に参加するだけでなく、同じようにCDMに参加した仲間を助けるために資金を集めていた。このため逮捕状が出され、2022年10月、チェンマイに逃げてきた。その後は仕事には就かず、友人に頼る生活をしている。

いとこは投獄

ミャンマーでは2021年2月1日、国軍が突如クーデターを起こし、全権を掌握した。直後に始まったのがCDMだ。

労働・入国管理・人口省に当時勤務していたピエ氏も職場へ行くのをやめた。故郷のマンダレーに戻り、CDMで収入がゼロになった学校の教師らの生活を支援するため、SNSで寄付を募った。

集めたのは7カ月で約300万チャット(当時のレートで約20万円)。これはピエ氏の1年9カ月分の給料に相当する。これをマンダレー近郊の約30人の教師に配った。

寄付を集める際に最も苦労したのが銀行口座の継続だ。募金活動が軍政に知られ、自分名義の銀行口座が凍結された。すぐに妹名義のオンライン銀行口座を開き、募金を続けた。それも2カ月で凍結。今度はいとこ名義の口座で続けた。その1カ月後、その銀行口座も凍結され、募金活動は停止を余儀なくされた。

募金活動を続けたことで犠牲者も出た。いとこは禁固12年の実刑判決を受け、マンダレーの刑務所に収監された。妹はいったん逮捕され、警察の尋問を受けたが放免された。いとこも妹も、逮捕された理由はCDMの資金集めに使われた口座の名義人だったからだ。

「妹は携帯電話の使い方もわからないので、犯罪には加担していないとみなされたようだ。いとこの場合は、ミャンマーの文化では男性には温情をかけず、厳しい判断をするから、たぶん実刑になった」とピエ氏は話す。

危険は自分にも及んだ。いとこが逮捕された後、ヤンゴンに身を潜めて生活をしていた2022年10月のある日、妹から電話があった。これまでの自分に対する逮捕状の理由であったCDMの活動(刑法505条Aに該当)とは別に、国家の安全を脅かす行為(テロ)を行ったという刑法50条の罪状が追加されことを知った。逮捕から逃れるため、電話を受けた2日後にエージェントに2万5000バーツ(約11万3000円)を払って急いで国を出た。

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