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小芝居打って切り抜ける
母の逮捕を受け、「すぐ逃げろ」と父に言われた。2~3カ月ごとに居場所を転々と変える生活。最後に身を寄せていたタウンジー周辺の村の近くでも国軍とPDFの武力衝突が起きた。隠れているPDF兵士を見つけるため国軍兵士が家々を捜索し始めていた。ネンモーン氏も見つかれば逮捕される恐れがある。国外に避難するときだと思った。
タウンジーの空港に行って国民IDカードを提示したら、「これは偽造だ」と没収された。このカードは、ネンモーン氏がもともと持っていた国民IDカードを紛失した際に5万チャット(約3万6000円)のわいろを役人に払って作ってもらったものだ。「偽物のわけがない」と騒ぎ立てたら、政治活動には触れられることなく放免された。
ただ国民IDカードは没収された。国民IDカードがないので飛行機でタイに飛べなかった。
ネンモーン氏はPDFの行軍に同行して陸路でタイへ行くことにした。車と船を乗り継ぎ26日かけ、4月25日にタイ側の国境の町メーソットにたどり着いた。メーソットで働いていたジャーナリストの夫と一緒にチェンマイへ移動した。
今は夫が主宰するニュースメディア「メコンニュース」の市民ジャーナリスト部門長として12~13人をとりまとめる。セキュリティレベルの高いメッセージアプリ「シグナル」を使ってグループを作り、そこに市民ジャーナリストはネタを投稿する。興味深いものがあればメコンニュースに記事を書いてもらう。原稿料は150バーツ(約680円)だ。
守ってあげられなくてごめん
仕事をするかたわらで家族のことは頭から離れない、とネンモーン氏は言う。「刑務所にいる母とは人を通して間接的にしか連絡をとれない。だけど私のことを心配してくれている。『守ってあげられなくてごめん』とのメッセージも受け取った。『私はもう大人だから大丈夫。健康にだけは気を付けて』と返事をした」
73歳になる父は弟(19)とタウンジーに残り、細々と暮らす。弟は徴兵名簿に名前が載っていない。母が出所したら、父は家族で台湾に移り住みたいと考えているようだ。
ネンモーン氏は「ミャンマーを扱うメディア・コーディネーターを続けられるのであれば住むのはどこでもいい。一生タイでもいい。ただ今は将来のことはあまり考えられない」と打ち明ける。