ミャンマーの元公務員、民族衣装ロンジーで1000キロの国外逃亡

チェンマイでも家の中ではロンジーを愛用するノウェイさん。5着持っている。取材中は終始、弾ける笑顔を見せてくれた。明るい性格が苦境を乗り越える秘訣かもしれない

「タイとの国境を流れる川をボートで渡ったらあとは全力で走った。ロンジー(腰に巻く布。ミャンマーの伝統的な衣装)を着ていたから走るのが大変だったよ」。笑いながらこう語るのは、ミャンマー中部出身で元公務員のノウェイさん(35)。彼はいまタイ北部チェンマイへ逃れ、日系企業で週5日働く。

農民になりすます

ノウェイさんがタイへ逃れるきっかけは突如訪れた。2021年2月に起きた軍事クーデターから2年半後の2023年8月10日夜、国軍が彼を捕まえようと、ミャンマーにある彼の実家にやってきたのだ。軍のトラックが2台近づいてくるのを察知したノウェイさんは、靴を持ち、すぐに裏口へ。家の柵を越え、走って逃げた。

そこからは移動の連続だ。翌11日の早朝まで家から離れ、近くにあった低木の影に隠れた。夜が明けてからは友人の家へ身を寄せることに。だが長く1カ所にとどまることに危険を覚え、翌日には別の友人宅へ移った。夜までかくまってもらい、深夜に友人の車でミャンマー中部の別の町へ。1週間後、再び別の町へと移った。そこから南へ600キロメートルのところにある東部のモン州モーラミャインへ高速バスで移動し、タイとの国境の町ミャワディへと向かう。

ノウェイさんは巧みに検問を突破する知恵と、国境を気合で越える大胆さを持ち合わせていた。ミャンマー国内にたくさんある検問を通るために偽造IDカード(身分証明書)を事前に用意し、髪型を変え、「豆農家」を装った。

国境の町ミャワディに着くと、タイとの境界線を流れるモエイ川を5分かけてボートで越境。対岸に着くやいなや、エージェントの待つ場所まで全力で走った。まとっていたのはミャンマーの民族衣装ロンジー。ロングスカートのような腰巻きで、速く走るには不向きな服だ。

「タイへ不法入国するときに着るには明らかに悪い選択だった。だけどロンジーが好きで普段からよくはいているんだ」とノウェイさんは楽しそうに語る。

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