伝統社会の変化を憂うベナンの村の長老「子どもには都市に行って稼いでほしい」

トボ・フエさん(右)とべジヌ・シルさん(左)の姉弟。ドボ市の外に出かけたことはないという

「外国製品は生活を助けてくれる」

村に入ってくるモノについては、プラスチック製品やバイクなどの生活を便利にする外来品の活用に積極的だ。

姉弟が若いころに村の外から買ってくるものといえば「ユーキ」くらいだったという。ユーキとはベナンの清涼飲料。現在はさまざまな種類があるが、当時はオレンジ味だけだった。

そんな村でプラスチック製の容器を使い始めたのは2人がまだ若かった約50年前のこと。それまで植物の実の殻から作った容器や金属製の容器を使っていた。だがなかなか壊れず、落としてもうるさい音が鳴らないプラスチック容器の登場に村人たちは喜んだ。

また約40年前には姉弟の父が村で初めてバイクを買った。今もシルさんはバイクを持っており、フエさんを乗せて農地に行くこともあるという。衣服もベナンの伝統服ボンバだけでなく、洋服も着るようになった。シルさんも農作業に行くときは涼しい短パンに着替えて作業する。

ペットボトル入りのコーラは危険?

便利な外来物を受け入れる中で、拒絶されるものもある。フエさんは「昔ながらの村の生活のほうが良い」と近代的な生活を受け入れきれない気持ちを打ち明ける。

新しく入ってくるもので拒絶される代表格は、ペットボトル入りの飲料や化学肥料など飲食物にかかわるものだ。ユーキなどの飲み物を買いに行く時、シルさんは「生産過程や原料がわからないものは飲んだら危険かもしれない」と理由をつけ、ペットボトルのものではなくびん入りのものをわざわざ買いに行く。だがどちらも中身は同じだ。

ベナン人にとってナイジェリアの飲み物は体に悪いという意識がある。これは高齢者に限ったものではなく、30代のベナン人男性も「ナイジェリアから来るビールやコーラは体に悪いから飲まない」と話す。

例えば、ナイジェリアで作られるペットボトル入りのコカ・コーラはベナンの地方でも普及している。ブードゥーの儀式でも用いられる。

ポゴドゥー村にもペットボトル入りコカ・コーラは入ってきており、フエさんも5年ほど前に初めてそれを手にした。だがシルさんは「ナイジェリアから来たペットボトル入りのコカ・コーラは、ブードゥーの儀式で使うのはいいが、口にはしたくない。何で作られているのかわからない。ケミカルな味がする。コーラを飲むなら米国から来たオリジナルのびんのものがいい」と眉をひそめる。

ドボ市の隣のジャコトメ市ケベフエ村で開かれたブードゥーの祭りで使われたペットボトル入りのコカ・コーラ。ブードゥー教の祭りではソダビ(ベナンのヤシ酒)やジンといったアルコールのほか、砂糖水やコーラ、ユーキ(ベナンのソフトドリンク)といった甘い飲み物がお供え物として捧げられる

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