生後間もない2人の子どもを失ったブードゥー教の最高指導者、「呪いで苦しむ人たちを救いたい」

ブードゥー教のシェフ(最高指導者)兼ビジョン(占い師)のスクダン・クウェシィ・フェリス氏。手に持つのはビジョンが占いに使用する道具「ファ」だ

ベナン南西部のクッフォ県ドボ市ポゴドゥー村に、寝る間も惜しんでブードゥー教の信者に尽くす、大人気のブードゥー教の最高指導者(シェフ)がいる。スクダン・クウェシィ・フェリス氏(50代前半)だ。フェリス氏は、信者らが抱える問題をブードゥー教の神の力で解決する。「私は20歳のとき、グリグリ(呪い)で、生まれたばかりの子どもを2人失った。同じ悲しみを誰にも味わってほしくない」と語る。

来訪者は1日100人

フェリス氏のもとには信者がひっきりなしに訪れる。特に日曜日は100人を超えることも。ベナン最大の都市コトヌーからバイクで3時間かけて来る人や隣国ナイジェリアから訪れる人もいるほどだ。

フェリス氏の人気の秘訣は彼の持つ力の強さにある。ブードゥー教の数多の神の力を駆使し、訪問する人の悩みを解決するのだ。

彼が最初に使えるようになったブードゥー教の神はバソビだ。バソビは、子どもを産めなくなるグリグリを解き、妊娠を可能にする力を持つ。このほか、頭痛や腹痛などの病気を治したり、仕事が欲しいという願いを叶える力もある。

ジョグラという神は、相談に来る人の問題の原因を見抜き、解決方法を教える。ジョグラは女性に憑依し、その女性がジョグラの言葉を相談者に伝える。

「アゼ」の力も偉大

またフェリス氏はアゼ(魔術)の力も操る。ブードゥー教の信者はシェフのもとを訪れる必要があるが、フェリス氏の信者は他の場所にいても恩恵を受けられる。その理由は、フェリス氏はアゼの力を使い、依り代である岩や木にソダビ(ヤシ酒)を注ぐことで、神の魂を信者のもとへ送れるからだ。

「アゼを持たないシェフは、アゼを持つ他のシェフより力が劣る。信者を守るためにシェフはアゼを持っているほうが良い。だがアゼを持っていることが知られると、人々は恐れて離れてしまう。良いアゼがあることを知らないからだ」(フェリス氏)

ちなみにアゼはベナンだけでなく、ナイジェリアやトーゴ、ガーナなどでも広く信じられる魔術だ。

さらに、人々を助けることに喜びを感じ、誠心誠意尽くす姿勢も、フェリス氏の人気を支える大きな要因となっている。「長寿」を求めてやってくる人が最も多く、それに次ぐのが仕事・金銭面での相談だ。

左側の男性がアブラヤシの赤い油をかけているのはブードゥー教の神ジョグラ。ジョグラは女性に憑依して相談者に言葉を伝えるという

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