やまないロヒンギャへの迫害に抗ってきた、ロヒンギャ(イスラム教を信仰するベンガル系住民)が主導する政党「民主人権党(DHRP)」。しかし現在、国会に議席はない。前回の選挙(2015年)から、ロヒンギャの参政権は認められなくなったからだ。2020年11月8日には5年ぶりの総選挙が実施されるが、DHRPはどう闘うのか。DHRPのチョーソーアウン幹事長に、今回は総選挙への戦略とアウンサンスーチー国家顧問への思いを聞いた(前回はこちら)。
■ヤンゴンだけで支持者20万人
――DHRPの組織はどうなっているのか。
「党本部はヤンゴンにあり、マンダレー管区とエヤワディ管区に地方事務所を置いている。すべての州と管区にも支部がある。(ロヒンギャが多く暮らすミャンマー西部の)ラカイン州には8〜9つの支部がある」
――党員の数は。またロヒンギャの割合は。
「35人の中央執行委員会(Central Executive Committee)は、すべてロヒンギャで構成されている。その下位組織として、500人の中央委員会(Central Committee)があるが、その中にはロヒンギャではない人たちも20〜25人いる」
――支持者の数はどのくらいか。
「ヤンゴンだけで20万人のロヒンギャがいるとされており、彼らの多くが支持してくれていると考えている。ただ、ロヒンギャはミャンマーの公式な人口統計データに反映されていない(「不法移民」とされるロヒンギャは国勢調査の対象外)ため、正確な数はわからない」
――政治資金はどう調達するのか。
「主に党員の会費で運営している。毎月、中央執行委員会のメンバー35人から2万チャット(約1540円)ずつ、中央委員会のメンバー500人から1万 チャット(約770円)ずつ集金している」
■ムスリムの議員は上下両院でゼロ
――現在の議席は。
「ゼロだ。前回の選挙(2015年)では当初、DHRPから、ロヒンギャを含む18人の候補を立てた。しかしそのほとんどが認められなかった。最終的にロヒンギャではない3人が候補者となったが、だれも当選できなかった。今の議会は、1936年から2015年までのミャンマー議会史上初めて、上下両院の664議席でイスラム教徒がひとりもいない状態だ」
――前々回の選挙(2010年)までは、ロヒンギャにも参政権があったと聞く。なぜ2015年にはそれが認められなくなったのか。
「それまでロヒンギャの多くは、国民登録証のかわりに『仮登録証明書』を持っていた。これは国民登録証に代わる一時的な証明書だ。しかし2015年2月、テインセイン大統領(当時)が、この仮登録証明書は3月末で失効すると発表した。これにより多くのロヒンギャが投票や立候補の権利を失った」
――今もこの状況は変わらないのに、11月の選挙には出馬するのか。
「ヤンゴン管区、エヤワディ管区、ラカイン州でDHRPから候補者を立てる予定だ。私も立候補する」
――ロヒンギャからの得票が見込めない以上、厳しい闘いになると想像する。どんな戦略を考えているのか。
「ロヒンギャに投票と立候補の権利を与えてもらえるよう、政府に請願している。数日前にも、連邦選挙委員会に請願書を送ったところだ。こうした書類はアウンサンスーチー国家顧問やウィンミン大統領にも届く手はずになっている。ここに書いたのは『まずは話し合いの機会を設けてもらいたい』ということだ」
■少数民族政党と連立できる
――11月の選挙では、アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が大幅に議席を減らすのではないかと予想される。DHRPにとってこの選挙は、どんな展開になると考えるか。
「NLDは議席を減らすかもしれないが、一方で人民党(同じ88世代であるコーコージー氏が率いる)など新しい勢力も出てきている。DHRPの候補者が当選しても、決して大きな人数にはならないだろう。しかし、他の少数民族政党やNLDなどと連立する選択肢もあり得ると考えている」
――ミャンマーではロヒンギャに対する差別意識が強いと聞く。他の政党からどう見られていると思うか。連帯できる可能性はあるか。
「ある。いくつかの政党とは、普段から連絡を取り合っている。シャン族やカチン族などの少数民族政党が主だが、ビルマ族の政党であっても、私たちと同じように『民主主義』を目指す政党とは横のつながりをもっている。現在90以上あるミャンマーの政党のうち、NLDも含め、40くらいの政党とは友好関係を築くことができていると思う」
――他の政党と一緒に政治活動をすることはあるか。
「ある。たとえば今月(2020年3月)は、他の少数民族政党との会議が3件入っている。政治問題について意見交換をすることが多い。少数民族がさまざまな国家政策から取り残された時に、どう対処すべきかを話し合ったりする」
■ロヒンギャが帰還できるわけない
――イスラム教の国をはじめ、外国とのつながりもあるのか。
「イスラム教の国とDHRPがサポートしあう関係は今のところまったくない。他国のイスラム教徒は、ロヒンギャにあまり関心がないように感じる。一方、宗教に関係なく、ミャンマー政府との関係が深い先進国、たとえば日本、英国、米国などと連絡をとることはある」
――外国との関連でいえば、バングラデシュには90万人ものロヒンギャが流出し、巨大な難民キャンプがいくつもある。ミャンマー政府は「難民の帰還を進める」と言っているが、どう思うか。
「ミャンマー政府がロヒンギャの帰還を受け入れる言動をとることがあるが、あれは対外アピールのためのパフォーマンス。政府にとって、ロヒンギャはいない方がいい。積極的に動くはずはない。難民が帰還するために必要なのは、身の安全とミャンマー国民としての権利。メディアの取材も自由に受けられるように保証されるべきだ。今の状態では、彼らは帰ってこないだろう」(続く)