カメラマンの福士耕世さん(23)は8月13日、ルワンダの首都キガリのスラムで暮らすシングルマザーらがモデルを務めたファッションショーを取り上げたオンラインイベント(主催:大妻女子大学児童学科厚東研究室)で講演した。このファッションショーは2019年9月に、日本人カメラマン9人を含む12人が共同で主催したもの。「とびきりのおしゃれをして最高に輝くルワンダのシングルマザーたちの姿を形(写真)にでき、幸せな気持ちになった」と福士さんは語る。
■日本人とおそろい!
シングルマザーらがランウェイに登場するたびに、どっと湧き上がる拍手と歓声。キラキラした笑顔で手を振りながら、観客の間を歩くシングルマザー。アップテンポな音楽とカラフルな衣装が会場全体の温度を一気に上げる――。
ここはキガリのスラム、キミフルーラ地区のコミュニティセンター。日本人らが主催したファッションショー「ハッピー・マザー・プロジェクト」で、ランウェイを歩いたのはおよそ30人のシングルマザー。シングルマザーの子どもを中心に、200人以上のスラム住民も観客として駆け付けた。
観客が見守るランウェイの先には木製のステージが広がる。奥には、ルワンダ国旗の色に合わせた緑・黄・水色のタテシマ模様の幕がかかる。足元からは、ピンクや黄色などの派手な照明が次々とステージに上がるシングルマザーを照らす。
シングルマザーが着る衣装はキテンゲ(東アフリカ伝統の布)を使ったワンピースやロングスカートだ。大きめの花柄をプリントした青やオレンジといった色鮮やかなキテンゲの衣装がシングルマザーたちを華やかに包む。
衣装を準備したのは、キガリで日本食レストラン兼宿「キセキ」を経営する山田美緒さんと日本在住の岡本望さんが立ち上げた「ドレス・フォア・ツー」というプロジェクトだ。1枚のキテンゲ(長さ約5.5メートル)を半分に切り、ルワンダ人と日本人がおそろいの布から洋服をつくってランウェイを歩く。シングルマザーの布代はドレス・フォア・ツーが8割を負担した。
衣装はオーダーメイド。好みのキテンゲを地元のテイラー(仕立屋)に持ち込む。半袖やノースリーブ、膝丈やロング丈など思い思いのドレスが出来上がった。ウエストを絞ったり、フリルを入れたりしたものもある。
■喜んだのは子どもたち
ファッションショーの企画は2019年4月に、福士さんやリーダーの香川智彦さんら日本人カメラマン9人で立ち上げた。目的は、ルワンダのスラムに住むシングルマザーを写真の力でハッピーにすることだ。
「おしゃれをして自信をもったシングルマザーの美しさや気高さを最大限に引き出すのがカメラマンの役目。その輝く瞬間を写真として形に残るものにしてあげたいと思った」(福士さん)
だがファッションショーを実際にやってみて、ハッピーになったのはシングルマザーだけではなかった。ショーに出る自分の母を見に来た子どもたちがショーの開始前から会場で楽しそうに踊っていたという。
この光景を目にしたとき福士さんは「(シングルマザーである)自分の母がいつもよりおしゃれをしてランウェイでキラキラ輝いているのを見ると、子どもも幸せを感じるのだなと撮影しながら思った」と話す。
当日は、カメラマン9人に加えて、日本人ボランティア2人とキセキで働くルワンダ人従業員1人が運営にかかわった。日本人ボランティア2人は英語で司会を担当。ルワンダ人従業員は、日本人カメラマンとシングルマザーや観客が英語でコミュニケーションを上手くとれないときにルワンダ語でサポートした。
■お気に入りの3枚をプレゼント
福士さんらはショーの前にファミリー撮影会も開いた。9人の日本人カメラマンが約70組(200人)のスラムに暮らす家族を写真に納めた。写真を撮ってもらった人たちは1組につき3枚気に入った写真を選ぶ。それを福士さんらがその場でプリントアウトしてプレゼントしたのだ。
写真のプリントアウトで使ったプリンターとインクはクラウドファンディングで集めた資金から出した。2019年5月31日から7月15日までに10人から集まった7万9000円だ。
「写真をもらって嬉しさのあまりジャンプしながら家に帰る人、みんなにいちいち写真を誇らしげに見せびらかす人、撮影した次の日も写真を見ながらニヤニヤ笑っている人がいて、そんな反応を見るたびにカメラマンをやっていて良かったと感じた」と福士さんは喜びを口にする。