青年海外協力隊員としてケニアで2020年4月まで活動していた望月直樹さんは8月15日、NPO法人ケニアの未来が主催したイベントで、ケニアの非行少年少女の内情について報告した。「ケニアの非行少年は生活苦やネグレクトが原因で罪を犯すことが多い。お金がなくて、勉強するために参考書を盗んだ子もいる」と話した。
■副教材代の2万円が払えない
望月さんが配属されたのは、ケニアの首都ナイロビから車で2時間のところにあるキリニャガ郡のワムム更生学校(全寮制)。更生学校とは、罪を償う少年院や刑務所と違い、子どもたちを通常の学校に戻すことを目指す施設だ。ここではスワヒリ語や算数、理科、社会といった基礎科目を学び、また手に職をつけるため石工や塗装、農業などの職業訓練も受ける。
こうした更生学校はケニア全土で9つある。このうち再犯の可能性が最も高いとされる子どもが通うのがワムム更生学校だ。
ワムム更生学校で青少年活動(主に体育を教える)していた望月さんにとって、とくに印象に強く残った少年のひとりが17歳のオディアンボくん(仮名)だ。彼は窃盗罪で捕まった。
オディアンボくんが盗んだのは高校の参考書だ。彼にはきょうだいが多く、両親は子どもを十分に養えていなかった。彼は優等生で勉強意欲が抜群。ところがお金がなかったため、他の生徒が持っている参考書を彼だけが買えなかった。
協力隊員として派遣される前は中学校の英語教師で、いまは復職した望月さんは言う。
「日本では親に参考書を買ってもらう子どもがほとんど。勉強したくないという子もたくさんいる。だが、窃盗してまで勉強したいというオディアンボくんにとても驚いた」
ケニアの公立学校では教科書は無料だ。だが参考書や辞書、文房具は自腹で買う必要がある。望月さんは「年間で最低でも2万シリング(約2万円)はかかる。こうしたお金を払えなくてドロップアウトする子は少なくない」と言う。
望月さんによると、オディアンボくんは、罪を犯すとは考えられない少年だという。「オディアンボくんはとても真面目で努力家。みんなのリーダー的存在だった。(望月さんが担当していた)体育の授業で、私のスワヒリ語がうまく伝わらず、みんなが話を聞いてくれないときも、彼がみんなを静かにするように手伝ってくれた」(望月さん)
■アルコールで育児放棄
ワムム更生学校に送られた少年のうち罪が一番重かったのは、強盗殺人未遂で捕まった16歳のカマウくん(仮名)だ。彼はキヨスクの店員を背後からパンガという鉈で襲い、食べ物を盗んだ。
カマウくんの両親はアルコール依存症で夫婦げんかが絶えなかった。両親が離婚したあとは父親に引き取られたが、父親が育児を放棄したため、祖母がカマウくんの面倒を見ていた。
望月さんによれば、カマウくんも真面目で勉強が良くできる子だという。だが両親の離婚で、彼が思っていた家族像が崩れた。
望月さんは「カマウくんは悪い仲間とつるみ、マリファナの売買にかかわっていた。頭がいい子だからやってはいけないと分かっていたと思う。両親の離婚や仲間の誘いを断れないことなど、辛いことが積み重なって、かまってほしい、周囲の注意を自分に向けたいという欲望から犯罪に走ったのでは」と推測する。
更生学校にやって来たときのカマウくんには笑顔がほとんどなかった。「私以外のスタッフも『彼は話しかけても反応が薄く、何を考えているのかわからない』と言っていた」(望月さん)。それでも望月さんが覚えたてのスワヒリ語で諦めずに話しかけ続けると、カマウくんは少しずつ心を開いてくれるようになった。
カマウくんは、望月さんに何度も「親がいる自分の家に連れて帰ってほしい」と言うようになった。望月さんは「早く親と一緒に暮らしたかったのではないか」と話す。
カマウくんが襲った店員は首にけがを負った。致命傷とはならなかったが、後遺症が残っているという。しかし育児放棄をしていた父は被害者に謝罪。示談を進め、和解した。いまは月に1度のペースでワムム更生学校にカマウくんのようすを見にくるようになった。カマウくんの将来について、更生学校のスタッフと話し合っているところだ。
新型コロナの影響で協力隊員の任期を1年残して帰国した望月さんは「子どもたちの家庭を訪問するなどして、暮らしの中にもっと入って、彼らがなぜ罪を犯すのかをより深く知りたかった。コロナで帰国せざるを得ず、やりたかったことが中途半端で悔しい。チャンスがあれば戻って任務を全うしたい」と話す。