国際協力NGO「パレスチナ子どものキャンペーン」(CCP)は8月20日、パレスチナで2018年から実施中の理科教育支援事業のオンライン報告会を開催した。この事業の目玉は、パレスチナの小学校の理科教師に実験の仕方などを教える研修。この事業を担当する赤坂有紀さんは「パレスチナでは理科教員でも、実験のやり方や顕微鏡の使い方を学ぶ機会がない」と語る。
■実験の授業はやる気が出る!
2020年度の研修の対象となるのは公立小学校の理科教師42人。ガザ地区の6校、ヨルダン川西岸の15校からそれぞれ2人ずつ選ばれる。研修は1年に8〜10日間実施する。
研修の目的は、パレスチナ教育省のカリキュラムが定める実験・観察を理科教師に体験してもらうこと。赤坂さんは「限られた施設や設備でも実験や観察ができるよう、教育省は簡単なものを使うことを推奨している」と説明する。
7月には、アルミ箔の入ったペットボトルに静電気を帯電した風船などを近づけて電気を検出する実験を取り上げた。また、地球の構造を学ぶための教材には地元ガザで収穫したオレンジを使った。一度むいた皮をオレンジに爪楊枝で固定し、地球のプレート構造を表現した。
こうした研修の成果は、児童の反応に表れている。実験を多く取り入れたことで、児童からは「自分たちで考え、実験をするチャンスを先生が与えてくれるのでやる気が出る」「講義だけの授業より理解しやすくなった」といった声が上がっているという。
■実験の授業ができない
こうした研修をCCPが実施する背景には、パレスチナの教育省が2017年に小学校の学習カリキュラムを改訂したことがある。とりわけ大きく変わったのが理科。座学から、実験や観察などが重視されるようになった。
だがカリキュラムの改訂に教育現場が対応できていないのが現状だ。理科教師からは「ただでさえ教える内容が多い。そのうえ実験までやらなければならなくなった。手が回らないし、そもそも(実験は)失敗が怖くてできない」という声が上がっていた。
教師らの置かれる状況について赤坂さんは「教員が実際的な訓練を積める場が圧倒的に少ない」と分析する。パレスチナでは2014年までは大学で教職過程をとっていなくても、また教員免許がなくても、大学を出て筆記試験に合格すれば教師になれた。実験のやり方の訓練を受けないまま教壇に立つ教師も珍しくないという。
パレスチナ教育省が主催する研修も講義形式がほとんどだ。実験を訓練する場はない。「教員のスキルアップのためのサポートも不十分だ」と赤坂さんは語る。
パレスチナ政府にとっては教育予算の確保も大変だ。パレスチナでは、イスラエルからの輸入関税やイスラエルで働く人たちの所得税などの税金はイスラエル政府が代理で徴収し、パレスチナはそれを受け取ることになっている。ところが政治的な対立から支払いが拒否されることもしばしば。それが教育予算にも影響を与え、教師の給料の遅配にもつながっている。