【パーム油発電の幻想②】私たちが払う電気料金が自然破壊に使われる! その裏に2つの不完全な制度があった

H.I.S.Super電力が角田市で進めるパーム油発電所の建設現場(2019年に撮影)。2020年9月に建設工事はほぼ終わり、試運転を始める予定だという(写真提供:FoE Japan)

「地球温暖化や森林破壊など環境に悪影響を及ぼすパーム油発電所の建設に私たち(日本在住者)の電気代が使われている」と、環境NGO、FoE Japanの満田夏花(かんな)事務局長は話す。その背景には自然破壊が疑われるパーム油を承認してしまう国際的な認証制度と、パーム油発電を再生可能エネルギー(再エネ)として優遇する日本の固定価格買取制度(FIT制度)がある(①はこちら)。

■見せかけの環境配慮?

不完全な制度のひとつめは、マレーシアに本部を置く非営利組織「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)の認証制度だ。RSPOは、アブラヤシ(パーム油の原料)の生産者、商社、銀行、環境NGOなど7つのステークホルダーで構成される。

RSPOの認証制度の目的は、公正に取引されたパーム油製品にお墨付きを与えること。これにより熱帯林を転用して作られたり、違法に取引されたりしたパーム油と差別化を図る。

RSPOは2018年、「森林減少なし・泥炭地破壊なし・搾取なし」を打ち出し、認証基準を強化した。原生林だけでなく、二次林の土地をプランテーションにするのも規制した。

ところがこのRSPO認証には大きな「抜け穴」がある、と満田さんは言う。RSPOは、森林を伐採してそこにアブラヤシのプランテーションを作るのは規制するものの、すでに農地となったところをプランテーションに転用することは規制していない。つまり、森を開拓してキャッサバ畑にし、今あるキャッサバ畑をアブラヤシのプランテーションにすれば、RSPO認証を得られる。

RSPO認証はまた、不正行為の確認・規制が弱いという欠陥もある。RSPOは森林破壊や環境汚染の疑いのあるアブラヤシプランテーション企業にも認証を与えている。

たとえばパーム油の生産、流通、販売のすべてを手がけるウィルマーグループのプランテーション企業ムスティカ・センブルは1999年から、熱帯林の火災に関与してきたとされる。RSPOの認証基準が強化された後の2019年にも、プランテーションの内外に火を入れたとの疑いがある。にもかかわらずムスティカ・センブルは2010年にRSPO認証を受け、取り消されることもなく今もパーム油を生産し続ける。

インドネシアの環境NGOワルヒのワヒュー・ペルダナさんは「RSPO認証では、アブラヤシ栽培による環境破壊を防げない。むしろ疑いのある企業に認証を与え、そのグリーンウォッシュ(環境に配慮していると見せかけて利益をあげること)に加担している」とRSPO認証のずさんさに憤る。

■FIT制度から除外すべき

環境破壊を助長するもうひとつの制度がFIT制度だ。

FIT制度とは、再エネを普及させるため、東京電力などの電力事業者に対して再エネで作られた電気を固定価格で買い取らせる制度だ。バイオマス発電もそのひとつとして位置付けられる。

パーム油発電による電気の買取価格は1キロワット時あたり24円。10円が回避可能費用(電気事業者が本来予定していた発電をやめたことで支出を免れることができた費用)なため、再エネ発電は14円分が優遇されていることになる。

この高い買い取り価格を支えているのが、一般家庭が電力事業者に毎月払う電気代だ。電気代に再生エネルギー発電促進賦課金(賦課金)が含まれている。その賦課金が再エネ電力の買い取りに使われるのだ。

経済産業省によると、2020年5月以降の賦課金は月685円(月230キロワット時を利用する世帯)。バイオマス発電は再エネ電力の約15%、自然破壊を助長するといわれるパーム油や木質ペレットなどを燃料としたバイオマス発電はその9割を占める。そうすると、一般家庭は年間約1100円を、森林破壊の可能性のあるバイオマス発電に支払っていることになる。

「発電事業者が自社の力でビジネスを展開するならまだしも、私たちが払う電気料金で優遇され、しかもその事業が自然破壊につながっている。パーム油発電などの有害なバイオマス発電をFIT制度から除外すべきだ」と満田さんは訴える。

■H.I.S.のパーム油発電所に反対の声

再エネ電力を高い価格で買い取ってくれるとあって、2012年以降、パーム油を含む一般木質・農作物残さを燃料とするバイオマス発電所が日本国内で激増した。FIT制度が始まって以降に建設・稼働する一般木質・農作物残さの発電所は2020年3月時点で57カ所。これはFIT制度の前にあったものの5倍以上だ。さらに190カ所がすでに認定を受け、現在建設を進めている。

もし建設中のすべてのパーム油発電所が稼働した場合、必要となるパーム油は350万トン。今輸入している量の4.5倍だ。この需要を満たすため熱帯雨林のプランテーション化が進めば、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるというパリ協定の目標に逆行する。

にもかかわらずパーム油発電所の建設は止まらない。今問題になっているのが、H.I.S.のグループ企業であるH.I.S. Super電力が宮城県角田市で建設する発電所「H.I.S.角田バイオマスパーク」(出力:4万1000キロワット)だ。H.I.S. Super電力はFIT制度が改定される前の2017年に駆け込みで認定を取得した。

この発電所で必要となるパーム油は年間7万トン。これは現在日本が輸入するパーム油の約1割にあたる。H.I.S. Super電力は、RSPO認証を受けたパーム油だけを燃料として使うと発表したが、具体的な調達方法を明らかにしていない。

H.I.S.角田バイオマスパークの建設に対して、FoE Japanをはじめとする世界の環境団体は「熱帯林の破壊を助長する」と抗議。世界各地から寄せられた20万人の建設反対の署名をH.I.S. Super電力に提出した。だがH.I.S. Super電力はこれまでに3回、受け取りを拒否している。

環境活動家グレタ・トゥーンベリさんに賛同する若者らが立ち上げた学生団体フライデーズ・フォー・フューチャー仙台の時任晴央さんは、H.I.S. Super電力へのこう怒りを口にする。

「H.I.S.は『自然の摂理にのっとり、人類の創造的発展と世界平和に寄与する』を理念に掲げ、ボルネオ島のエコツアーなども企画している。なのに重大な環境被害を及ぼすパーム油発電所の建設を進めている。これはグリーンウォッシュそのものだ!」(おわり)