外国人技能実習制度の大義名分は破たんしている、母国に帰って就く仕事は「実習生の送り出しビジネス」!

ベトナム・ハノイ郊外にある外国人技能実習生訓練センター

途上国の人が日本で働きながら技術や知識を習得することで、途上国の経済発展に人づくりの側面から協力するという日本の「外国人技能実習制度」。しかし現実としてこの制度はすでに破たんしている。学んだスキルを母国で生かすケースは皆無で、それどころか、新たな実習生を日本に送り出すビジネスにかかわる人が圧倒的に多いのがその証拠だ。ベトナムをはじめとする実習生派遣国では「送り出しビジネス」が一大産業になるなど、奇妙な実態を生んでいる。

「実習を終えて母国に帰った人で、日本で習得した技能を使って仕事をする人はほとんどいない」。神戸大学大学院国際協力研究科の斉藤善久准教授(ベトナムの労働法が専門)はこう断言する。

斉藤准教授が札幌のアパレル工場で働く中国人労働者らを取材したところ、「中国に帰ったら技術を使って働きたい」と答えた人はゼロだった。「こんな高級なミシンやアイロンは中国にはない。ここで身につけた技術を持ち帰っても、働く場所なんて見つからない」「せっかく日本語が話せるようになったのだから、もっと勉強して通訳になりたい」「中国の日系企業で働きたい」という回答ばかりだったという。最初から技術を身につける目的で技能実習制度に応募した人はひとりもおらず、多くはお金目当てだった。

■渡航前に借金100万円の実習生も

習得した技術を使わないのなら、帰国した実習生OB・OGはどんな仕事に就くのだろうか。実習生の送り出し数が中国に次ぎ2番目に多いベトナムで調査した斉藤准教授によると、大半は、ベトナム人実習生の「送り出し機関」で働くか、新たに機関を立ち上げる。「技能実習制度の過程で実習生が知り得たノウハウで、最ももうかる仕事が『実習生の送り出しビジネス』。それが一番成功しているパターンだ」

2020年の東京オリンピック開催もあって日本政府は、実習生の受け入れを拡大している。このためハノイやホーチミンにある送り出し機関には、周辺から応募者が押し寄せる。年齢は18歳〜30代前半の男女。地方出身者が多いこともあり、日本での過酷な労働については無知な人がほとんどだ。送り出しビジネスでもうけたいOB・OGもその現実は言わない。

外国人技能実習生訓練センターの教師の壁にはいろんな張り紙がある

外国人技能実習生訓練センターの教師の壁にはいろんな張り紙がある

送り出し機関は、学費や生活費のほか、実習生が日本で万が一失踪した時のための「保証金」も請求する。斉藤准教授によると、その額は約20万〜40万円(約3500万ドン〜7000万ドン)。また実習生のなかには、送り出し機関へ入所するまでに数人の紹介者を経てくる人もいて、「紹介料」として1人当たり約28万円(約5000万ドン)を払うケースもある。

こうした金額を実習生は、親せきから借りて工面する。日本に渡航する前に100万円(約2億ドン)以上の借金を負う人もいる。親せきらは農地を担保に銀行から融資を受けることが多いため、実習生が日本で逃亡したり、実習期間を満了せずに帰ってくると、返済できず、貴重な農地を失うことになる。

■「家族単位」で受け入れるべき

「技能実習制度の矛盾を生んだ根本的な原因は、受け入れ国の日本にある」と斉藤准教授は指摘する。日本政府や受け入れ企業は実習制度を「途上国の人たちに技能を習得させる」ためではなく、「安価な労働力の供給源」として利用しているのが実態だからだ。

日本政府は14年4月の関係閣僚会議で、建築分野で3年間の技能実習を終えた外国人実習生を、さらに最大2年間建築業務に従事させることを可能とする「緊急措置」を決定した。東日本大震災の復興事業や東京オリンピックを見越した一時的な建築需要の増大に対応するためと説明している。「途上国の経済発展に資する」というのはもはや、建前にさえなっていないのは明らかだ。

実習生は、日本で過酷な低賃金労働を経験したにもかかわらず、帰国後は同胞を騙し、大金を巻き上げ、彼らを日本へ送り出して同じ苦境をなめさせる。搾取の悪循環を避けるためにも、技能実習制度は廃止すべきだ、と斉藤准教授は主張する。

「実習生は最低賃金で働かされ、3年(今後は5年)で使い捨てられる。借金を抱えて日本にやってきて、どんなに嫌でも我慢して働き続けなければならない。奴隷に近い。日本は受け入れるのなら、実習生としてではなく、家族単位で移住してもらい、長く安心して働ける枠組みを構築すべきだ」

日本国家公務員労働組合連合会も先ごろ、「技能実習制度を見直し、外国人労働政策の転換を」と題する提言の中で、「政府が外国人労働者の就労は原則認めないとしながら、技能実習制度を利用し、労働力不足を外国人労働者で補い、用が済めば帰国させている。この考え方は、技能実習制度の乱用と言わざるをえない」と批判。技能実習制度を趣旨に沿って見直し、人権擁護など実効ある規制を強化するとともに、外国人労働政策を根本から転換すべき、と提案している。

日本へ渡航する前の訓練生の表情は明るい(ハノイ)

日本へ渡航する前の訓練生の表情は明るい(ハノイ)

■韓国は「労働者」として受け入れる

実はお隣の韓国も、日本の技能実習制度をモデルに91年から「産業研修生制度」を実施していた。日本と同様に、「技術移転」を名目に、国内の3K(きつい、危険、汚い)産業での労働力不足を補完するために利用してきた。だが、送り出しプロセスでの不正や賃金不払いなどの問題点が多く、01年時点での不法労働者化率(研修中に疾走して不法労働者となる確率)は50%、賃金不払い率は36.8%、性暴行経験率は12.9%に達した。

事態を重くみた韓国政府は04年、「外国人勤労者雇用などに関する法律」を施行し、外国人労働者を正式に受け入れる「雇用許可制」を打ち出した。これは、「技術移転」の建前を捨て、外国人労働者を労働者として受け入れることを意味する。この結果、賃金不払い率は9%(07年)に、不法労働者化率は6.9%(09年)へとそれぞれ大きく改善した。民間機関やブローカーを排除し、送り出し機関と受け入れ機関の双方を政府機関(G2G:政府対政府)にしたことで、送り出しプロセスでの不正も減ったという。

政策転換で、韓国での外国人労働者問題が完全に解決したわけではない。とはいえ「国際協力」「技術移転」という美辞麗句を並べず、労働者を労働者として受け入れる潔さは、日本も見習うところがあるかもしれない。