ベネズエラといえば世界屈指の美女大国。なにしろ「世界3大ミスコンテスト」の受賞者数をみても、ミスワールド6人(1位)、ミスユニバース6人(2位)、ミスインターナショナル6人(1位)と累計18人を輩出している。これは他に追随を許さないダントツの成績。ちなみに3大ミスコンの日本人受賞者はミスユニバースの2人だけだ。
そんな美女いっぱいの国ではどんなふうにバレンタインデーを過ごすのだろうか。私がかつて暮らしたベネズエラ・マリパ村を例に、2月14日の風景を切り取ってみたい。
マリパはベネズエラ東部に位置し、首都カラカスから飛行機とバスを乗り継いで最短でも7時間(待ち時間がさほどない場合)かかる何の変哲もない村だ。人口およそ3000人。7割が先住民(インディヘナ)・黒人・白人の血が混じった人たちで、残りの3割がインディヘナ。外国人は、私とキューバ人、ドイツ人ぐらいだった。
さて、バレンタインデーの夕暮れどき、近所のマリア(15歳の女の子)が何度も何度も村の中の目抜き通りを往復していた。歩き疲れると、ときどき小さな広場のいすにちょこんと腰掛けて休む。夕方といえどもここは熱帯。暑い。
「さっきからいったい何しているの?」。私は尋ねた。
「別に‥‥」と連れない返事。
「あれ、ひょっとして、誰かがプレゼントをくれると思って待っているんじゃないの?」と突っ込むと、「うるさいなあ」と恥ずかしそうな表情を見せた。
ベネズエラのバレンタインデーは日本以外の多くの国と同様、男子が女子にプレゼントを贈る習慣がある。花だったり、お菓子だったり、指輪だったり‥‥。贈り物に特に決まりはない。
途上国の田舎で暮らす10代の女の子にとってみれば、バレンタインデーでプレゼントをもらうことはとにかく嬉しい。豊かとはいえない村の人たちはそもそも個人の所有物が極端に少ない。服などを除けば、親に何かを買ってもらうこともまれ。なんでもいいから“自分だけのモノ”を得ることに強い幸せを感じるのだ。
リセオ(日本でいう中学と高校が一体化した学校)ではこの日、女子同士でいくつプレゼントをもらったという話で持ち切り。「私は5個」「私なんて10個よ」と競い合っている。村の中でも貧しい部類に入るマリアからすればひとつでも多くのプレゼントが欲しかったのだろう。「日中は3人からチョコレートと花をもらった。けれど、夜が勝負なの」
夜8時を回ってもマリアはまだ外をぶらついていた。大した収穫もなさそうだった。そんな健気な彼女を見るに見かねて私は、このときデング熱明けでしんどかったにもかかわらず、部屋の中から1膳の日本の箸を探し出し、広場にいた彼女にプレゼントした。
「きれい! ありがとう」。彼女はとても喜んだ。
それからしばらく経って、私はマリアに聞いた。「箸を使ってごはん食べている?」。すると彼女は言った。「(1膳の箸のうち)1本は妹がもっているから、私のは1本だけ。(かんざしのように)髪に差して使っているよ」
「そうか。ごめん」。私は、箸をもう1膳あげた。
ロマンチックではなかったが、マリパならではの心がホッとするバレンタインデーだった。