- 2020/10/03
未来の食生活となりうるか!? 札幌で昆虫食を体験しよう
昆虫食が次世代の食事として紹介されてから久しい。環境に良い、宇宙食として有用など、様々な「効能」が取りざたされるも、結局日本で昆虫食が根付いたとは言えない。昆虫食に未来はないのか?日本では食べられないのか? 私が札幌で体験した3つの事例を、段階に分けてみていこう。
※レベルが上がるごとに、刺激が強くなります。
●Level1 昆虫スナック
私はかねてより昆虫食に興味があった。今まで忌み嫌うことしかしなかった昆虫は、実は食べることができる、昆虫への概念が変わる! そんな思いを抱いていた矢先に、あるポスターを見つける。それが上の写真だ。私は見つけたその足で、イベントに申し込んだ。昆虫を「食べさせてもらいにいく」という、消極的ながらも、最初の一歩である。
イベントは札幌駅前のとある公共会館の会議室で行われた。講師に蟲愛會(むしめづるかい)という福岡飯塚市で昆虫食を広める団体の方を呼び、昆虫食のいろはを学ぶ。日本ではどこで昆虫食の文化があるのか、世界にはどこで見られるか。そもそもなぜ昆虫を食べたいのか。
印象的だったのは、講師の方が昆虫を食べる理由である。彼らはほかでもない、「おいしいから」食べるのだという。環境にいいからとか、物珍しいからとかではない。確かに「おいしい」がなければ続かないはずだ。それに対して今回主催していた札幌市環境プラザの職員の方は
「もうちょっと、なにか、こう……環境的な…」と、困惑していたが。
さらに講師の方は興味深いことを口にした。
「昆虫は普段から食べるわけではない。イベントだから食べる」
意外である。私はてっきり彼らは昆虫食が「食生活」になっているものだと思っていた。いわく昆虫は「コストがかかる」のだという。昆虫をとるのに時間も労働力も多く費やされる。それは生み出される生産量と見合わないのだろう。日本の昆虫食の現実を垣間見た思いだ。
最後にカレー味のコオロギスナックを食べた。味はまさにカレー風味のスナックである。虫っぽい臭みはない。食感もスナックそのものだ。口に残る羽のような感覚は気のせいであろう。
●Level2 茹でた昆虫
イベントの最後に興味深い話を聞いた。
「北大の博物館なら食用に昆虫を売っていましたよ」
灯台下暗しである。数日後、早速行ってみた。
(北海道大学博物館の外観)
私が所属する北海道大学には、誰でも無料で入れる博物館がある。3階建てからなるその施設は、展示規模も非常に大きい。
「札幌農学校以来の本学の歴史展示にはじまり、12学部等による展示「北大のいま」、五感を使って展示を楽しむハンズオン展示、そして博物館の学術資料を紹介する「学術標本の世界」へと続きます。
博物館のバックヤードを紹介するミュージアムラボも設けています。」
(北海道大学総合博物館ホームページから)
ついでに博物館を堪能した私は、順路の最後にあるお土産コーナーにたどり着く。そこで、今回の目的のものを見つけた。
選択肢は3種類あった。タガメ・サソリ・タランチュラである。今回は一番安かったタガメを選んだ。それでも1300円である。中は二匹しか入っていなかったため、一匹650円の計算だ。日本では「コストがかかる」ことを、身をもって知った。
次はいよいよ実食だ。開けてみてまず驚いたのは、その姿である。下の写真の通り、昆虫そのものだ。袋を読むと、茹でて脱水しただけと書いてある。
「え? これ食べられるの?」
まさにこの思いである。ポテチを盛り付けてごまかしてみるも、その強烈なインパクトは変わらない。仕方がない。意を決し、付き合ってくれた友達とともに一匹ずつ食べてみた。
ぼりぼりという音とともに最初にやってくるのは、エビの頭のような風味である。食べられないこともないかなと思っていると、ふと気が付く。全然噛み切れない。そして何よりも強烈な後味が残る。この苦い後味が全然口から離れない。味以上にこの後味がつらかった。
(今回買ったタガメのパッケージ)
(その中身)
●Level3 揚げた昆虫のフルコース
昆虫を食べることに抵抗がなくなってきた私は、さらにいろいろな種類の昆虫を食べてみたくなった。札幌でそういう施設はないかと探していると……あった。それは札幌の中心地から少し離れた、ある動物園だ。
「ノースサファリサッポロ」という名前のその動物園は、体験型ふれあい動物園と自称しているとおり、動物との距離がとても近い。大体の動物の檻の中に入ることができる。私はそこで、蛇を首に巻き、友人の肩にはインコがとまっていた。そんなアウトローな雰囲気の動物園にあるフードコートで、昆虫を食べることができた。
食べた昆虫は全部で三種類である。コガネムシ・バッタ・サソリだ。どれも素揚げされ、多少の味つけがされていた。値段は各800円と今までで一番安い。さてどんなものか。一緒に食べた友人二人の感想とともにお届けしよう。
最初に食べたのはコガネムシだ。これは一個一個が小さく、食べることへの抵抗感が一番少ない。食べてみると意外と普通。油でこてこてに揚げられているので、味といっても大体が油の味であった。後味に多少苦みが残るくらいである。食べられなくはないが、おいしくもない。3人の評価は10点満点中3点。
次に食べたのはバッタだ。こちらも素揚げされていたが、味付けで甘辛い感じが付け足されていた。私はこの甘辛い感じと、バッタにある草の苦みがぶつかって全然受け付けなかった。しかし友人二人の評価は違った。二人ともエビの風味がして、コガネムシよりおいしいという。品種改良次第ではちゃんと食べられるものになると、かなりの高評価であった。だが手放しで「おいしい!」とはいかない。あくまで「虫にしては」である。三人の評価は10点満点中5点。
最後はサソリだ。はっきり言おう。めちゃくちゃまずい。サソリの爪は味がしなかったが、重要なのは胴体だ。3人が口をそろえて、同じ感想を述べた。
「インクの味がする!」
見た目もあいまって、まさにマッキーペンだ。インクなんて口にしたことがないだろうと思うかもしれない。しかしそれ以外に表しようがない。食べた時に広がるインクの味、インクの匂い。とっさに体が拒否している。これは食べ物ではない、食べてはいけないと。昆虫食の定番ともいえるサソリが、こんなにまずいとは思わなかった。三人の評価は10点満点中1点。
(フードコートのメニュー表 手書きで追加の昆虫メニューがあった)
(インクの味のするサソリ)
●さいごに
いかがだっただろうか。振り返ってみると、様々な種類の昆虫を食べた。しかしどれも「エンターテイメント性」が強い。「虫はおいしいから食べよう!」ではなく、「虫を食べるという体験をしよう!」である。たしかに私の目的は後者に近かった。しかし昆虫食の未来を考えるうえで、エンターテイメントで終わっては何もわからない。イベントの講師の方が言っていたように、「おいしくなければ食べない」のだ。
だからこそ、虫を虫として食べるのではなく、虫を食べ物として食べることが必要だ。今回はせいぜい揚げて味付けする程度であった。しかし昆虫を食材として扱った昆虫料理では、また別の何かが見えるのではないか。昆虫食への新たな挑戦を誓いつつ、今回のエッセーを終わります。
(サポーター/匿名)
*ganasサポーターズクラブのエッセーの会では、エッセーの書き方を学んだりフィードバックしあったり、テーマについてディスカッションしたりして、楽しくライティングをスキルアップしています。
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