国連児童基金(UNICEF)は6月19日、大地震が4月に起きたネパールで、少なくとも245人の子どもがこの2カ月で人身売買されそうになったり、不要または違法な形で児童養護施設に入れられそうになったことが判明した、と発表した。同団体はかねて、地震で生活が困窮することで人身売買が急増すると危惧していた。
「生活の糧を失った親たちは、『子どもが今より良い生活ができる』との人身売買業者の言葉を信じ、子どもを手放すよう説得されてしまう。人身売買業者は、子どもに教育や食事を与えることを約束するが、現実は、多くの子どもが搾取や虐待にあう」(UNICEFネパール事務所の穂積智夫代表)
ネパールでは地震の発生前から、人身売買は大きな社会問題となっていた。国際労働機関(ILO)が2001年に実施した調査によると、毎年1万2000人の子どもがインドに売られている。とりわけ女子は売春を強要されたり、家事労働者(メイド)として奴隷のように働かされる。
UNICEFによれば、ネパールでは内戦(1996~2006年)以降、安全や教育の提供を約束してくれる児童養護施設に、子どもを簡単に預ける親が少なくないという。震災前でも1万5000人の子どもが施設で暮らしていた。こうした子どもたちは、海外への養子縁組や人身売買にあいやすい状況にいる、とUNICEFは懸念する。
ネパールの児童養護施設でボランティア活動をする「ボランツーリズム」についてもUNICEFは警戒している。「養子を望む家庭、ボランティア、寄付者を引き込むために、ネパールの子どもが故意に家族から引き離され、児童養護施設に入れられるケースがある」(穂積代表)からだ。
UNICEFは現在、ネパール政府やNGOと、子どもの人身売買を防ぐ取り組みに力を注ぐ。ネパール国内の検問所・交番の能力強化を支援するほか、ボランツーリズムを中止するよう旅行代理店への働きかけ、子どもを手放さないことを訴えるチラシの配布、人身売買にあった子どもの一時保護施設の設置支援――などだ。
ネパール政府は、国際的な養子縁組を一時的にストップさせる措置を打ち出した。また、子どもが、親や承認された保護者を伴わずに郡をまたいで移動することも禁止した。