「信頼」をベースにコロナ禍を乗り切るタクシー運転手が、西アフリカのベナンにいる。国際協力機構(JICA)職員やJICA海外協力隊員など、日本人御用達のケンデ・カジミールさん(45歳)だ。「時間を守る」「料金をぼらない」ことで評判の彼は、JICA関係者が日本へ退避した後も「日本大使館の職員らのおかげで、何とか生活できている」と語る。
約束の10分前には到着!
2020年3月、2年の任期がまだ残っている協力隊員が次々とケンデさんに電話をかけてきた。「帰国するから家まで迎えに来てほしい」。そこで初めて協力隊員や企画調査員などJICA関係者の退避を知ったケンデさん。仲間の運転手にすぐさま伝えた。「今のうちにたくさん稼いでおけ。これが最後の機会になるかもしれないぞ」
ただ、ケンデさんの予想は良い意味で裏切られた。日本に帰国しなかった日本大使館の職員7人とその家族の合計9人が、コロナ禍のケンデさんの食い扶持を支えたのだ。日本人は、通勤や買い物、休日のちょっとした外出にケンデさんのタクシーを利用する。コロナ禍の影響で一度にまとまった収入が得られる遠出の機会はほとんどなくなったものの、月平均で約8万5000CFAフラン(約1万7000円)を稼げた。
日本人がケンデさんをひいきにする大きな理由は、彼が「時間を守る」からだ。ケンデさんは、毎回約束の10分前に到着する。急な呼び出しにも、何分後に着けるかを正確に伝える。
流しのタクシーが普及しておらず、タクシー運転手に何時間も待たされることもざらなベナン。ケンデさんは、ベナン在住の日本人にとって、予定通りの行動を保障してくれる有難い存在だ。
ケンデさんが信頼されるもうひとつの理由は「料金をぼらない」こと。ケンデさんのタクシー運賃は、コトヌー市内なら1回乗って1500CFAフラン(約300円)。定額制で、面倒な値段交渉の必要がない。
一般のタクシーは初乗り料金が1500CFAフラン(約300円)。移動距離によって運賃が増えていく。メーターはないため、外国人客に相場以上の額を要求する運転手も少なくない。日本人にとっては使いづらいのが実情だ。
ケンデさんは、日本人に自分が選ばれ続ける理由について「きちんと仕事をしているからだと思う」と語る。時間厳守や適正な運賃はもちろんのこと、乗客がタクシーを一時的に離れるときの手荷物の監視や、コロナ対策のためのマスク着用まで、乗客の安心安全に細心の注意を払う。
ケンデさんのタクシーをリピートするのは、日本人だけではない。フランス人やイタリア人、少し裕福なベナン人もそうだ。理由は、危険なバイクタクシーではなく、車での移動を好むから。ケンデさんは「ほかのタクシー運転手なら拒むような道が悪いところも、お客さんの希望があれば行く」と“乗客ファースト”ぶりを話す。
ベナンの新型コロナを取り巻く状況は、第一波(2020年6~8月ごろ)が収まって以来、落ち着いている。「いまではベナン人を中心にタクシーを使う回数も戻ってきた。ベナン人客の乗車が収入の半分近くに上る月もある」とケンデさんは嬉しそうに語る。