モンゴルは知られざるラップ大国だった! ラッパーからシャーマンになる人も

首都ウランバートルの貧困地区「ゲル地区」出身の男性ラッパーTHUNDER Z(写真は、TOONOTレコードが島村一平氏に提供)。TOONOTレコードには、モンゴルで唯一「本物のギャングスタ」と呼ばれる男性ラッパーDesantも所属する

「“シャーマン大国”のモンゴルが“ラップ大国”と呼ばれる日は近いかもしれない」。こう明かすのは、国立民族学博物館(大阪府吹田市)の准教授で、モンゴルのシャーマニズムを研究する島村一平氏だ。島村氏によると、モンゴル人のラッパーとシャーマンには、韻を踏むことで新しい言葉を生み出すという共通点がある。ラッパーからシャーマンになる人もいるほどだ。

小1から韻の踏み方を習う

モンゴル語のラップの大きな特徴は、子音を2つ、3つと連続で重ねて韻を踏むこと。ラッパーは、言葉の出だしをそろえる頭韻と、後ろをそろえる脚韻の両方を駆使する。

韻をふんだんに使った口承文芸が根付いていることも、ラップに対する強みだ。モンゴル人は伝統的に、詩や歌、文学作品などを文字で記録するよりも、口伝えで残してきた。韻をつけることでリズムが生まれるので、記憶しやすいという。

島村氏は「(モンゴル人は)とにかく何でも韻を踏む。小学校1年生のモンゴル語の教科書にも韻文は載っている。作文の授業では、韻を踏んだ詩を子どもが自分で作って音読するほど」と説明する。

「韻文化」をもつモンゴル人にとっては、ラップバトルも身近。ラッパー同士が即興で言葉を掛け合う「フリースタイル」は、「ラップ・デンベー」という訳語が生まれて、すぐに広まった。デンベーとは、モンゴルの遊牧民が、口げんかのように相手を挑発しあう掛け合い歌と指遊びを組み合わせた口承文芸だ。

人口の1%がシャーマン

島村氏によると、モンゴル人シャーマンが呼び寄せる精霊には、韻を踏むものと踏まないものがいる。

韻を踏む精霊がシャーマンに乗り移った場合、こうなる。精霊を呼ぶときに使う召喚歌の歌詞(呪文)を唱えていたシャーマンの体内に、韻を踏む精霊が入るとシャーマンは一変。シャーマンの口から、韻を踏んだ言葉が次々と勝手に飛び出すという。

これを「韻の憑依性」と名付けた島村氏は、ラッパーにも目をつけた。ラッパーが新たなラップを生み出す時にも、何かに取り憑かれたように「降りてくる」瞬間があるからだ。

島村氏のドライバーを長年務めるモンゴル人男性(シャーマン)によれば、精霊とは言葉そのもの。精霊が体内に入る感覚を島村氏が尋ねたところ、韻を踏んで精霊の召喚詞を唱えているうちに「自分でも『何を言っているんだ』と思いながら、言葉が自然と出てくる」と明かしたという。

シャーマンに乗り移るのが韻を踏まない精霊だと、シャーマンも韻を踏む言葉を口にしない。太鼓をたたいて歌のメロディを口ずさむだけ。それが終わると、シャーマンは着ていた服を脱ぐ。その後、精霊から受け取ったメッセージを静かに告げる。

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