アムネスティ・インターナショナルは、2020年の世界の死刑執行状況の調査結果を公表した。死刑を執行したのは18カ国、件数は前年から26%減り483件だった。国別にみると、最多は246件のイランで、全体の半分超。エジプト(107件)、イラク(45件)、サウジアラビア(27件)の4カ国で全体の88%を占めた。ただ数千件ともいわれる中国については、アムネスティも調査できなかったため、今回の結果には含まれていない。
世界最大の死刑執行国は中国
2020年の動向としてアムネスティが最も注目したのはエジプトだ。死刑執行数は前年の3倍を超える107件。うち23件は、平和的な反政府活動をして逮捕され、人権侵害を受けた挙句、不公正な裁判で有罪となった人たちだという。アムネスティは、拷問や虐待で強要された自白であり、極めて不公正なものだった、と批判する。
死刑の執行を復活させた国は5つある。執行がここ数年なかったインド、オマーン、カタール、1年間停止していた台湾。これに加えて、米国連邦政府は、トランプ政権下で17年ぶりに再開。半年足らずで10件執行した。アムネスティは、国家による「殺人」を再開したと非難する。
ただ「世界最大の死刑執行国」とアムネスティが断言するのは中国だ。2020年の死刑判決や執行数は数千件に及ぶという。中国では、死刑の情報は国家機密扱いで、アムネスティも独自調査できなかったため、厳密な数字は把握していない。
アムネスティによれば、中国では死刑になる犯罪は46ある。薬物の密輸や武器など危険物の窃盗など、国際基準が定める「最も重大な犯罪」に当たらない非暴力的行為も含まれる。新疆ウイグル自治区のイスラム教徒に対して、放火や盗難などの罪がテロ組織に関与したとして、2014年6月に死刑執行されたこともある。
中国ではまた、横領をはじめとする経済犯罪や汚職も死刑の対象になる。国有の不良債権処理会社「中国華融資産管理」の頼小民・会長は2021年1月5日、計17億9000万元(約292億円)の賄賂を受け取った罪で、死刑判決を受けた。頼元会長は上訴したが棄却され、最高人民法院(最高裁)は判決のおよそ3週間後、死刑を執行した。
死刑を廃止したのは144カ国
良いニュースもある。死刑を法律で廃止する動きが世界的に進んでいることだ。
死刑を法律で廃止または事実上廃止する国は、2021年4月時点で144カ国と2019年の調査から2カ国増えた。中部アフリカのチャドでは2020年、死刑制度を廃止。カザフスタン政府も2021年1月2日に、同国が前年の9月に署名した死刑廃止条約を批准したと発表した。
死刑執行数は世界的にみれば減少傾向だ。アムネスティの調査によると、2020年の世界の死刑執行数(483件)は過去10年で最も少ない。執行件数がこれまで多かったサウジアラビアが前年比85%減、イラクも同55%減と執行数を大きく減らしたためだ。
2020年の死刑執行数が減ったのは、死刑制度の廃止や法改正だけではなく、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる裁判の遅れや司法手続きの停滞も寄与した。