南米コロンビアで、4月28日から続く税制改革への反対デモに参加する市民への暴力が深刻化している。米州人権委員会の報告書によれば、5月12日時点で暴動鎮圧機動隊による暴行、殺害、不当な逮捕、レイプの合計件数は2110件にのぼったという。
鎮圧機動隊は恐ろしい
2110件の内訳は、デモ参加者への不当な逮捕1055件、暴行362件、殺人39件。このほか、目を狙われた被害が30件、レイプは16件にのぼる。催涙ガスなどを使い、平和的なデモ行進を妨害するケースもあったという。
暴動鎮圧機動隊について、首都ボゴタにあるポンティフィシア・ハベリアナ大学のニコラス・カデナ元研究員(公共政策学)は、ganasの取材に対し「ESMAD(暴動鎮圧機動隊)は普通の警察とは違う。暴動(デモ)を鎮圧するために来る。だから攻撃は容赦ない。話し合いをする余地もない」と恐ろしさを口にする。
カデナ氏はまた、暴動鎮圧機動隊が「市民を鎮圧すること」に疑問を投げかける。「抗議は、私たちの権利・自由を守るためにある基本的な権利だ。警察や検察、裁判所は、抗議はひとつの権利だと考えるべき。抗議する人たちは『市民』であって、『犯罪者』ではない」と語気を強める。
コロンビアの新聞エル・ティエンポの5月14日付記事によると、暴動鎮圧機動隊の一部は催涙ガスだけでなく、複数の銃弾を一度に発射できる「ベノム」と呼ばれる機関銃のような武器をもつ。これが平和的なデモ隊に乱射されれば、危険性が高くなると伝えた。
デモに参加すると殺される
暴動鎮圧機動隊の暴走は、今回だけではない。カデナ氏は、コロンビア民衆教育・研究センター(CINEP)のレポートに注目する。このレポートによると、2002~14年の13年間で暴動鎮圧機動隊による被害は448件(3980人)に達する。内訳は傷害137件、脅迫107件、恣意的な逮捕91件、裁判を通さない処刑13件、性的暴力2件などだ。
象徴とされる事件のひとつが、2019年に起きたディラン・クルスさん(当時18歳)の殺害だ。クルスさんは同年11月25日、ボゴタで、教育を受ける機会と財政的な援助を政府に要求するデモに参加していた。
デモを鎮圧するために暴動鎮圧機動隊が出動。隊員が撃った銃弾がクルスさんの頭を直撃し、クルスさんはその2日後に死亡した。
カデナ氏は「デモに参加していた未成年の若者がESMAD(暴動鎮圧機動隊)に殺されたこの事件は、コロンビア全土に衝撃を走らせた」と当時を振り返る。