シリア内戦で930人以上の医療者が殺された、MSF日本事務局長「病院への攻撃は今すぐやめるべき」

空爆を受けたシリア・アレッポの病院。2016年に撮影(写真提供:国境なき医師団)

ショートショート フィルムフェスティバル&アジア 2021と国境なき医師団(MSF)は6月2日、内戦が始まってから10年が経ったシリアをはじめとする紛争地での医療施設に対する攻撃と、映像による証言活動をテーマにオンラインイベントを開いた。最初に登壇した、MSF日本事務局長の村田慎二郎氏は「医療施設を狙う攻撃は不当だ」と強く訴えた。村田氏は2012年から2015年まで延べ2年(計4回)にわたり、シリア北部のアレッポの郊外で病院運営などの活動責任者として働いた経験をもつ。

6割が難民・国内避難民に

村田氏によると、シリア内戦の大きな問題のひとつは、「戦闘員」と「(武力を持たない)一般市民」が区別されず、戦時下の病人の保護などを規定する国際人道法が無視されていることにある。

シリアでは内戦が始まった当初から、反政府勢力が支配する地域で活動する医療従事者は一般市民にもかかわらず、政府軍から攻撃を受けてきた。殺された医療従事者の数は10年間で930人にものぼる。

懸念されるのは、医療従事者をターゲットとする攻撃はいまだに収まらないことだ。

国連安全保障理事会は2016年5月、「医療部隊に対して意図的に向けられた攻撃は戦争犯罪だ」と明記する安保理決議2286号を採択した。ところが村田氏は「安保理決議を各国政府は無視した。この5年間でも(シリアをはじめ、イエメンやエチオピアでも)状況は改善されていない」と指摘する。

ちなみに10年におよぶシリア内戦で家を追われた難民・国内避難民の数は1300万人以上だ。これは、内戦前(2011年)のシリアの人口である2200万人のおよそ6割を占める。

病院の防護壁を作る

病院への攻撃を村田氏が強く批判するのは、激戦区となってきたアレッポの郊外にある病院で活動責任者を務めた2年間の経験がベースにある。「すべての決断に人の命を失うリスクが伴っていた。数多くの難題が日々起こっていた」(村田氏)

難題のひとつは、病院の周辺に週に1度、どこからか砲弾が打ち込まれることだ。「スタッフや患者の安全を考え、病院を閉鎖すべきか、患者の命をひとつでも多く救うために存続すべきか」。村田氏は悩んだ。どちらを選んでも全員を救うことはできない。

村田氏が出した結論は「病院を3週間閉鎖し、一時的に近隣の病院に患者を移す。その間に砂壁(病院を守るための高さ5メートル、幅2メートルの防護壁)を病院の周りにつくる。これにより、少なくとも頭上以外からの攻撃に対して備えることができる」というものだった。

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