ケニア・ナイロビに“スラムにぴったりのレンガ”がある。ドイツの建材メーカーPERIが開発し、ケニアの会社スタート・サムウェアがキベラスラムで生産する「ツイストブロック」だ。ツイストブロックは安くて頑丈。またモルタルを塗って積み上げる必要もないため、通常のレンガで家を建てる場合と比べて費用は半分になるという。(第1回、第2回、第3回、第4回、第5回、第6回)
家を解体できる!
スタート・サムウェアは2019年、キベラスラムのサラゴンべ区カトゥエケラにツイストブロックの工場を立ち上げた。カトウェケラはキベラスラムでも最も貧しい地区のひとつ。ここからスラムの中だけでなく、ナイロビ全体にツイストブロックを出荷する。
ツイストブロックの中は空洞だ。レゴのように接続部分が段差になっており、積んだ時にブロック同士がはまるようになっている。
作業は基本、積むだけ。間にモルタルを塗る必要はない。積み終わったらブロックの空洞に鉄筋を通して完成だ。
この利便性が発揮されるのがスラムの取り壊しの時だ。スラムでは都市開発の影響で家の取り壊しが頻繁に起きる。従来のレンガはモルタルで固めているため解体できない。そのため住民はレンガという資材を家と一緒にショベルカーにぶち壊されてしまう。
ツイストブロックは積んであるだけなので、もし取り壊しの通知が来たらすぐに家を解体できる。次の家の資材としても再利用が可能だ。
スタート・サムウェアでワークショップを担当するミルカ・アチエンさんは「ツイストブロックはスラムにぴったりな建材。ナイロビ西部のカワングワレスラムにも出荷する予定だ」と話す。
ドイツで革新アワード
値段も驚くほど安い。普通のレンガがひとつ約50ケニアシリング(約50円)するのに対して、ツイストブロックを普通のレンガ1個のサイズに換算すると価格はたったの7ケニアシリング(約7円)だ。
安さの秘密はその大きさと筒状の形だ。大きさは通常のレンガの17倍。中を空洞にすることで大きさを確保しつつ、使用するコンクリートの量を減らした。圧縮強度を維持したままコストダウンすることに成功したのだ。
コストダウンできるのはレンガ代だけではない。家を建てる際の労働コストもしかり。モルタルがほぼいらないため熟練の左官を必要としないからだ。積むだけの単純作業なので人数も少なくてすむ。
スタート・サムウェアのマネージャー、ベンマイク・オデュロさんはこう語る。
「2階建てで、床面積75平方メートルの建物を従来のレンガで作ろうとしたら労働コスト込みの総額は400万ケニアシリング(約400万円)以上。ツイストブロックを使えば、およそ半分の220万ケニアシリング(約220万円)に抑えられる」
スラムの生活を劇的に変える可能性があるとあってPERIは2021年、ドイツで「ジャーマン・イノベーション・アワード」を受賞した。
ツイストブロックを利用する建物は現在、少しずつ増えている。カトウェケラにあるオロース子どもセンターやグローバルワン学校といった公共施設などだ。ツイストブロックでできた民家もキベラスラムのマシモニに10軒あるという。
「ベニヤ板と木で作る家のほうが確かに安いし簡単。でもツイストブロックほうが頑丈だし、長期的に見たら安くなる。ツイストブロックがキベラで大きなシェアを占める日が必ず来る」とアチエンさんは期待する。(おわり)