「ティグライ紛争はアビィ首相の圧政から始まった」 ティグライ人の米大学教授がエチオピア政権を批判

米国サウスカロライナ医科大学のムルゲタ・ガブラエグゼビア教授。エチオピア北部のティグライ州の出身だ(写真:本人提供)

エチオピアの反政府勢力・政党「ティグライ人民解放戦線」(TPLF)が政府の軍事施設を襲撃したとして、アビィ首相が同国北部のティグライ州への攻撃を命じてから1年。この紛争で数千人が死亡、200万人以上が国内避難民となった。この紛争の根本には何があるのか。ティグライ人で、米国サウスカロライナ医科大学のムルゲタ・ガブラエグゼビア教授に話を聞いた。

相手候補を拘束した偽りの選挙

――紛争の原因は何か。

「直接的な原因は大きく2つある。ひとつは選挙をめぐるTPLFとアビィ首相の関係悪化だ。憲法の規定では(下院にあたる人民代表議会の)国政選挙が2020年に実施されるはずだった。だがアビィ首相は選挙を嫌がり、2021年に延期した。TPLFはそれを違憲だと非難した」

――アビィ首相はなぜ選挙を嫌がったのか。

「負ける可能性があったからだ。首相の地盤であるオロミア州は当時、野党・オロモ連邦議会が勢力を伸ばしていた。選挙になれば多数を占めることが確実視されていて、アビィ首相も小選挙区で負けていたかもしれない。連邦議会の30%以上の議席を占めるオロミア州で与党が議席を減らせば、アビィ首相は首相の座を失う。だから新型コロナを言い訳に選挙を延期した」

――だが2021年6月に延期された国政選挙では、アビィ首相が新しく作った繁栄党が大勝した。なぜか。

「アビィ首相は2020年6月に、オロモ連邦議会の幹部であるジャワール・モハメド氏やベケレ・ゲルバ氏らを拘束した。オロモ連邦議会などの野党はこれに抗議し、選挙をボイコットした。

主要野党がいない中でアビィ首相は選挙を実施したわけだ。相手候補者がいない小選挙区に出馬したら誰でも勝てるだろ。結果、繁栄党が連邦議会の約75%の議席を獲得し、勝利した。私たちはこの選挙を『偽りの選挙』と呼んでいる」

――TPLFはアビィ政権に対してどんな対応をとったのか。

「アビィ政権が選挙を延期するよう忠告したにもかかわらず、TPLFは2020年9月、ティグライ州の地方選挙を実施。98%の票を得て勝利した。アビィ首相は選挙を実施したことを非難し、首都アディスアベバとティグライ州を結ぶ国道を封鎖した。これにより食料や医療品の流通が完全にストップ。紛争につながる決定的な出来事となった」

空爆で屋根が吹き飛んだ家々。場所はティグライ州メケレ(写真提供:ガブラエグゼビア教授)

空爆で屋根が吹き飛んだ家々。場所はティグライ州メケレ(写真提供:ガブラエグゼビア教授)

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