日本語学生らがコロンビアの先住民保護区で紙芝居! 子どもたちが世界に目を向けるきっかけに

日本文化に興味をもつコロンビア人のグループ「メデジン日本クラブ」のメンバーたち。新型コロナの影響から2021年は紙芝居をするが、2019年までは演劇をしていた。写真はそのときのようす

日本文化に興味をもつコロンビア人のグループ「メデジン日本クラブ」は12月19日、コロンビアの先住民エンベラチャミ族の子どもたちに向けて紙芝居をする。題材は、日本神話の「天岩戸」。コロンビア第2の都市メデジンにあるEAFIT大学で日本語を教え、メデジン日本クラブを主宰する羽田野香里さんは「エンベラチャミ族の子どもたちが外の世界に目を向けるきっかけになってもらえれば」と話す。

先住民はかっこ悪くない

紙芝居をする場所は、メデジンからバスで4時間のところにある先住民保護区(レスグアルド)のひとつカルマタルアだ。ここで日常的に話されるのはエンベラチャミ語。カトリック教徒が多いが、伝統的な自然崇拝も生き残る。

紙芝居を読む人は5人。それ以外に10人ほどが、紙芝居の絵を描いたり、PRのポスターを作ったりと準備を手伝う。中心メンバーのひとりで、羽田野さんの教え子でもある大学生ケリー・オカンポさんは「太陽や月の神様が出てくるのは、日本神話もエンベラチャミ族の自然崇拝も同じ。すごく面白い」と流暢な日本語で話す。

紙芝居で使う言葉はスペイン語と日本語。同じ内容を2つの言語で読む。羽田野さんは「エンベラチャミ族の子どもたちに日本語の響きを楽しんでほしい。短いお話なので集中力ももつはず」と言う。

羽田野さんたちが目指すのは、エンベラチャミ族の子どもたちがアイデンティティに誇りをもてるようになることだ。自分たちの言語や伝統衣裳をかっこ悪いと感じるエンベラチャミ族の若者は少なくない。日本文化に触れたり、メデジン日本クラブのメンバーとやりとりしたりする中で、自分たちの文化の良さを見直してほしいという。

折り紙のワークショップも

紙芝居の会場となるのは、カルマタルアの中心部に建つカトリック教会だ。遠くからでも見えるよう、大きなプロジェクターで紙芝居を映す。50人ほどの子どもたちが見に来る予定だという。

紙芝居の前後にはさまざまなワークショップをする。折り紙や日本語のあいさつを教えたり、紙芝居の内容に関するクイズを出したりする。クイズに正解した子どもには、メンバーが折り紙の技を生かして作った恐竜のクラフトなどをプレゼントする計画だ。「世界は広くて面白いと伝えたい。文化や価値観が違っても協力しあえることも学んでほしい」(羽田野さん)

カルマタルアへの訪問は、メデジン日本クラブのメンバーにとっても学びが多いという。メデジンにはエンベラチャミ族という名前すら知らない人も少なくない。オカンポさんは「先住民の文化について、学校でも深くは勉強しない。でも、先住民の文化にスペイン人やアフリカ人の文化が交じり合って今のコロンビアがある。学ぶのはとても大切だ」と話す。

地元警察とコラボ!

カルマタルアのほかにもうひとつ、羽田野さんたちが紙芝居の公演に力を入れる場所がある。メデジンの山沿いにあり、かつて世界で最も危険なスラム街といわれた「コムナ13」だ。コロンビアの内戦中、ここでは左派ゲリラであるコロンビア革命軍(FARC)、右派民兵組織パラミリタレス、国軍の三つどもえの戦いが続いた。2002年には当時のウリベ大統領によるゲリラ掃討作戦「オリオン作戦」が実施され、100人近い死者が出た。

ここでの公演は、コムナ13の警察が開く平和教育イベントと日をあわせる。このイベントでは、子どもたちにおもちゃのピストルやバズーカを警察署まで持って来てもらい、ボールや人形などと交換できる。羽田野さんは「コロンビアでは2016年に内戦が終結してから、ゲリラが一般市民に戻るときに、それまで持っていた武器を軍に返した。おそらくそれをモチーフにしているのだろう」と話す。

背景にあるのは、内戦下で育った子どもたちの遊びが暴力的であること。ゲリラの抗争をまねて、おもちゃのピストルで打ち合う。「内戦は終わったけれど、子どもたちの心に平和が訪れるのはまだまだこれからだ」(羽田野さん)

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