クーデターを起こしたミャンマー国軍に対して、公務員などが職務を放棄して抵抗する「市民的不服従運動(CDM)」。これに参加する人たちを支えるため、ミャンマー人女性たちがニット帽を日本人向けに売り始めた。ニット帽を作ることで、CDMの参加者に収入を得てもらう。プロジェクトリーダーのスーさんは「CDMは公務員だけでなく、ミャンマー人全員の運動。ニット帽を販売して私もCDMに協力する」と語る。
世界に1つだけのニット帽
ニット帽は、ganasが開設したオンラインショップで販売する。数量は53個。赤や緑、白、黄色などのカラーバリエーションがあり、すべて手編みの1点ものだ。
材料となるウールはタイ製のものを使う。中国製のウールは値段も安く、しっとりしていたが、中国政府がミャンマー国軍を裏で支援しているとの疑惑から使用を断念したという。
値段はひとつ3980円。このうち1000円ほどが作り手に報酬として払われる。それ以外にも、収益の3分の1をCDMで失業した人への寄付に充てる。
家族も狙われる
ニット帽の作り手は全部で3人。そのひとりがシャン州の州都タウンジーで公立学校の教師をしていたナンさんだ。クーデターが起きた2021年の2月、ナンさんはCDMに参加した。
職務を放棄すると、反国軍とみなされ警察に拘束される。もし本人が見つからなければ、代わりに家族が拘束されて拷問を受けるという。
身の危険を感じたナンさんは家族とともにタウンジーを離れ、シャン州の地方の小さな村に移り住んだ。
ナンさんは60歳近くと高齢。また90歳になる父親の面倒も見なければならない。家からマーケットまでは遠く、水や電気も不安定だ。ナンさん一家にとって村での生活は楽ではない。
そんな中、ニット帽の仕事は大きな収入源だ。日本で販売するニット帽を月20個作れば収入は約35万チャット(約2万2000円)。これで生活費すべてをまかなうのは難しいが、大部分をカバーできる。
お金はなくてもアイデアはある!
「CDMは公務員だけの運動ではない。ミャンマーの全国民が参加する運動だ」
こう語るスーさんはクーデターが始まって以来、CDMで仕事を失った人たちを助けたいと思い続けていた。だがクーデターに加えて、新型コロナウイルスの影響で経済が悪化。ヤンゴンのIT企業で働いていたスーさんの給料は半分に減ってしまった。
CDMの参加者を助けたくても、自分の生活をやりくりするだけで精一杯。そんな時に思い立ったのがニット帽のビジネスだった。ニット帽を作るのに必要なのはウールと針だけ。編み方を覚えれば誰でもできる。
スーさんらは、まずは試しに60個ほどのニット帽を制作。それらを寒さの厳しいチン州で避難民生活を送る人たちに無料で届けた。3人の作り手は収入を得ながらニット編みの技術を習得した。それが日本でのオンライン販売につながった。
「ニット帽は冬しか売れない。期間限定だ」。こう話すスーさんは次のプランをすでに進めている。ミャンマーの伝統生地でドレスを作り、2022年の夏に日本で販売するのだ。
ドレスはニット帽に比べて収益率が高いため、より多くのお金をCDMの参加者に寄付できる。CDMの人たちでも作れるように、ハンドクラフトのアクセサリーにも取り組む予定だ。
「国軍は少しずつ追い詰められている。それは職や家を捨ててCDMに参加してくれている人たちのおかげ。私たちには彼らをサポートする義務がある」(スーさん)