3月4日公開の映画「ムクウェゲ」、コンゴ民のレイプ被害者5万人を無償で治療する医師を追う

コンゴ民主共和国のレイプ被害者を20年以上無償で治療してきた婦人科医のデニ・ムクウェゲ氏。2018年にはノーベル平和賞を受賞した

40万人以上の女性が武装勢力から組織的に性暴力(レイプ)を受けてきたとされるコンゴ民主共和国。被害に遭った女性たちを20年以上無償で治療する婦人科医デニ・ムクウェゲ氏を追ったドキュメンタリー映画「ムクウェゲ~女性にとって世界最悪の場所で闘う医師~」(立山芽以子監督)が3月4日、日本で公開される。

映画の舞台は、コンゴ民主共和国東部のブカブにあるパンジ病院。コンゴ人のムクウェゲ医師はこの病院を1999年に設立して以来、生後6カ月から91歳まで約5万人のレイプ被害者を治療してきた。1年間で受け入れる人数は現在2500~3000人にのぼる。

武装勢力の元メンバーも証言

映画「ムクウェゲ」の最大の特徴はインタビューの豊富さだ。主役のムクウェゲ医師はもちろん、レイプ加害者だった男性にも立山芽以子監督が自ら取材。「理屈ではなく、当事者がどんなことを感じたのかという証言が大事」と話す。

映画に出てくるレイプ加害者は、ブカブに住む26歳(撮影当時の2018年11月時点)の男性2人。マオンビ・イマニさんとリジィキ・ムカンバさんだ。ともに武装勢力の元メンバーで、わずか4、5年の間に約200人をレイプしたという。

レイプ加害者の言い分は、立山監督によれば、コンゴ民主共和国をテーマとした本やムクウェゲ医師が書いた本でさえ、これまで明かされてこなかった。

「武装勢力に無理やり連れていかれた」「(武装勢力に入ると学校に通えないため)本当は学校に行きたかった」「自分は幸せではない」

こうしたイマニさんとムカンバさんの言葉は立山監督にとって、レイプ加害者を映画の中でどう描くかの決め手になった。「男性は『レイプした悪い奴』ではなく『犠牲者』。他人(武装勢力のトップ)にレイプをやらされた『被害者意識』が強い」と立山監督は考える。

とはいえ、イマニさんやムカンバさんは武装勢力の手下に過ぎない。立山監督は「武装勢力のトップにも話を聞きたかった。『レイプ加害者』に仕立て上げたのは誰なのか。これを突き詰めない限り、問題の解決にはならない」と訴える。

武装勢力の一番の狙いは、同国東部で採れる携帯電話に使われるレアメタルやスズ、金などの鉱物資源。自分たちの資金源になる(紛争鉱物と呼ぶ)ため、鉱山に近い地域(住民)を支配したがるという。このための手段のひとつであるレイプを、ムクウェゲ医師は「大量破壊兵器」と例える。女性やその家族に身体的・精神的な屈辱を与える。

映画「ムクウェゲ~女性にとって世界最悪の場所で闘う医師~」の監督を務めた立山芽以子氏

映画「ムクウェゲ~女性にとって世界最悪の場所で闘う医師~」の監督を務めた立山芽以子氏

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