国際協力NGOと被災地のつながり (3)~国際協力への寄付は減るのか~

東日本大震災に食われる形で、国際協力への寄付が減る――。国際協力NGO関係者の間ではこんな心配の声がやまない。2011年夏の募金シーズンが終わったいま、実際はどうなのか。寄付は活動資金の源泉であるだけに、国際協力NGOにとって大きな懸念事項だ。「国際協力への寄付」は減っているのか。寄付行為は広がるのか。(第1回第2回

■JVC、今年の「夏の募金」は前年以上!

「東北復興への支援はもちろん大事。だが同時に、国際協力の重要性も認識している支援者が、思ったより多かった」

こう胸をほっとなでおろすのは、アジアやアフリカで人道支援と地域開発を手がけるNGO「日本国際ボランティアセンター(JVC)」の清水俊弘事務局長だ。その理由は、2011年7~9月に集まった「夏の募金」(郵便為替のみ)の金額が約850万円と、昨年の実績をわずかに上回ったからだ。

ただちょっと複雑なのは、この金額には、東北被災地の支援も含まれていること。JVCが採用する募金方法では、同団体が進めるどのプロジェクトにお金を振り向けるかを寄付者が指定できる。プロジェクトには「カンボジア農家の稲作改善」や「アフガニスタンでの診療所運営」など途上国での活動と並んで、「東北被災地での支援」も入っている。東北に使途指定されたのは約200万円だったことから、これを差し引くと、国際協力への寄付は厳密には約650万円。この数字は前年の実績をやや下回っているという。

それでも「『大幅減』という最悪の状況は避けられた」(清水事務局長)。JVCは目下、夏の募金のひとつである「クレジットカード募金」を集計しているところで、さらなる上積みも期待できる。また、毎月500円以上を自動引き落としする「JVCマンスリー募金」は11年4~8月の5カ月間で71人の申し込みがあった。これは前年同期と比べて2割増だ。

“まずまずの成績”を収めた夏の募金だが、そのお願い方法としてJVCは、国際協力も被災地も「同列」というコンセプトをうまく強調した。パンフレットには次のような文章がある。

「原発事故は、経済発展や効率のために誰かがリスクを負わされているということを見過ごしてきた、社会の矛盾を私たちに突きつけました。これは、先進国の豊かさのために途上国に負担が押し付けられている世界の構造と重なります」

清水事務局長は「こういうJVCの姿勢が支援者から共感を得たのかなと思っている。3.11で、『日本だから』『外国だから』と区別するのではなく、一人ひとりが自分なりに何かできることをしなければならない、という機運が高まったのでは」と分析する。

意識の高い支援者の「途上国の現状をもっと知りたい」という欲求に応えようと、JVCは、その受け皿として勉強会・報告会を充実させていく考えだ。そのひとつが、11年10月26日から一回目がスタートする「会社帰りに参加するNGO国際協力講座」。テーマをみても「『結婚指輪』から考える南アフリカ」、「『海外旅行』から考えるカンボジア」、「『繊維』から考えるラオス」、「『居酒屋』から考えるタイ」など、いずれも内容が絞られていて興味深い。

JVCとしては、国際協力に対する支援者の関心をいかに継続させられるかが重要だ。冬の募金シーズンが近づくなか、清水事務局長は「(寄付に対する)3.11の本当の影響は、12年3月にならないとわからない。マイナスにならないよう努力するのみ」と気を引き締める。

■シャプラニール、トータルでは1割増

6~9月の「夏期募金」が減ったにもかかわらず、11年度上期の寄付金合計では前年比プラスとなったのが、南アジアで貧困撲滅に取り組むNGO「シャプラニール」だ。筒井哲朗事務局長は「3.11があっても、(今年度は)国際協力への寄付金は減らないと思っていた。トータルで見ればその通りになった」と話す。

前年と比べて2割以上減った夏季募金の影響を受け、夏期募金を含む一般寄付(上期)は2割以上落ち込んだ。しかし、こうした現金寄付の減額をカバーしたのが物品寄付だった。

シャプラニールはかねてから、要らなくなった本やCD、ハガキ、切手、金券、外貨紙幣などの物品を支援者から送ってもらい、それを換金するという「ステナイ生活」と命名した活動を進めてきた。このぶんが今回は大幅に増えたのだ。

広報・渉外担当の石井大輔氏は「シャプラニールは3.11の直後、被災地支援キャンペーンとして、ステナイ生活を積極的にPRした。メディアにも取り上げられたことが奏功し、認知度が高まり、それが増額に結び付いた」とみる。

現金と物品を足した寄付の合計は結果的に上期で約2000万円と、前年同期を1割弱上回った。

ただそうはいっても、やはり気になるのは夏期募金の減少だ。シャプラニールも、途上国の災害と東日本大震災での活動をリンクさせて訴えるチラシを制作する戦略をとった。バングラデシュ南西部を2007年に襲った強大なサイクロン「シドル」(被災者は約890万人)で崩壊した村の少女たちがグループを作って、シャプラニールの支援のもと、災害に負けない村づくりを地道に進めるストーリーを盛り込んだ。だが思ったほど“効果”は出なかった。

筒井事務局長は「個人からの寄付は、件数では増えた。ところが1件当たりの金額が減ってしまった。もっと痛かったのは、企業・団体からの高額寄付が震災の影響で、少なくなったことだ」と明かす。

師走に入れば、「年末年始募金」の呼びかけが始まる。シャプラニールは11~1月にも再び、ステナイ生活を核とする被災地支援キャンペーンを打つ計画だが、見通しはどうなのか。

「われわれは、付き合いの深いところに募金を頼む。だから『シャプラニールは震災対応でも頑張っているし、寄付しよう』と思ってくれる人もいるのではないか。海外で大きな自然災害が起きた際も、多くの場合、日本国内の一般寄付は増える。通年の寄付総額は、楽観はできないが、悲観する必要もない」

筒井事務局長はこう予測する。

■国際協力はリバイブできるか?

こうした現状を見ると、3.11が起きた当初懸案されていたよりも、国際協力への寄付は減らないのかもしれない。ある関係者は「大手の国際NGOは日ごろから、広告をバンバン出して寄付を募っている。だから3.11の影響をもろに受ける。しかし(年間予算が1億円前後の)中小のNGOの場合、さほどひどくはないのではないか」と言う。

とはいっても関係者の間では、3.11を契機に国際協力への関心が薄れることに対する不安感は強い。この危機を打破すべく、国際協力業界はここにきて、「震災だけでなく、国際協力も」をうたい文句に両方の重要性をこぞってPRするなど、国際協力のリバイブに向けて動き始めている。

10月1~2日に都内で開催された国内最大の国際協力イベント「グローバルフェスタJAPAN2011」でも、テーマは「絆〜私たちはつながっている 世界は日本とともに。日本は世界とともに」だった。国際協力のお祭りであるにもかかわらず、震災ボランティアの活動紹介や被災地の子どもたちが描いた絵を展示するなど、「途上国」と「東北」の結び付きを演出。それが奏功してか、過去最高の来場者数(11万人)を記録した。

10月1日にキックオフし、17日まで催される、地球上から貧困をなくす世界的キャンペーン「スタンド・アップ テイク・アクション」もそうだ。貧困削減のみを訴えるのではなく、今年は、途上国がもつ“現場力”(コミュニティーの力)を東北復興に生かせるようきっかけづくりを意識している。その目玉が、スペシャルゲストとして、04年のインド洋大津波で被災し、地域の再建に尽力しているリーダーを招待し、被災地の宮城県石巻市で、地域再建のテーマで震災の被災者やボランティアと交流する機会を設けることだ。

国際協力のリバイブのやり方について、もっとダイレクトに訴えるべき、との意見もある。国内外のNGOの動向に詳しい伊勢崎賢治・東京外国語大学教授は「日本は戦争をやっていない。災害よりも、戦争のほうがずっと深刻。世界にはもっと苦しいところがいっぱいあるという事実を伝えるべきだ」と力を込めて言う。

■3.11でも寄付文化は定着しない?

そもそも寄付文化は日本に根付くのだろうか。

3.11で確かに寄付は集まった。日本赤十字社に寄せられた義援金は11年9月29日時点で約2889億円。これは、阪神・淡路大震災(95年)のときの義援金(約1007億円)の3倍近い数字だ。

市場調査会社インテージが7月26~28日に全国(被害地域を除く)で実施したアンケート「東日本大震災後の生活者の意識と行動調査・第3弾」の集計結果をみても、「(7月の調査時点で)金銭寄付した人は81.3%」「1人当たりの寄付額は平均で1万530円」と、寄付に対して日本人が前向きな姿勢になっていることがうかがえる。

さらにいえば、日本にはこれまで寄付文化がなかったため、伸びる余地は大きいはず、と期待する声もある。日本ファンドレイジング協会が10年末に出版した「寄付白書2010」によると、日本の寄付市場は約1兆円(個人寄付が5455億円。法人寄付が4940億円)。これに対して寄付大国・米国は個人寄付だけで約2300億ドル(現在のレートで約18兆円)と日本の33倍だ。

しかしこうしたデータだけで寄付文化が根付くと考えるのは早計だ。伊勢崎教授は「いまの日本の寄付文化は内向き。『国際協力』というテーマは後退している。震災への寄付は、国際協力に対する寄付増大へのステッピングストーンにならない」と指摘する。

国際協力NGOのネットワーク「動く→動かす」の稲場雅紀事務局長も、“質の高い寄付文化”が根付くには時間がかかるとのスタンスをとる。

「まず、災害に国境はない、という意識が、日本人の中にいかに醸成されるかが重要。災害にあった人は国の内外を問わず、等しく助けるべき、という考え方が、日本人にどれだけ受け入れられるかがポイントだ。“質の高さ”という意味では、とりあえず巨大NGOに寄付しておくというのではなく、一人ひとりが自分のお金がどう生きるのかということを真剣に考え、イノベーションや仕事の質をみて、中小のNGOにもしっかり寄付してもらえるようになれば理想」

3.11は多くの人にとって寄付のあり方を考えるきっかけになった。公共のために率先してお金を出すという行為そのものが身近になったことも事実だ。だが、国際協力活動を支えるような寄付文化が根付くかどうかは、現時点ではまだ見えてこない。(おわり)