アジアへの原発輸出を巡って、かねてから競争を繰り広げてきた日本と韓国。ところが3.11(東日本大震災)後、両国の勢いは“明暗”を分けた。政府開発援助(ODA)を使った原発輸出に世論の目が厳しくなった日本に対し、韓国は3.11を「チャンス」ととらえ原発輸出への意欲をさらに高めている。反原発運動を推し進める韓国のNGO「エネルギー正義行動」のイ・ホンソク代表は「(アセアンをはじめとする)アジアへの原発輸出を食い止めるには、反原発派が国際協力して力を結集させるべきだ」と力説する。
韓国にとって3.11がチャンスというのは2つの意味がある。1つは、原発輸出のライバル日本が二の足を踏んでいる間に、途上国の原発案件を受注できる可能性が高まること。もう1つは、韓国が2009年末にアラブ首長国連邦(UAE)から受注した初の海外原発案件の中身に対して韓国国内で渦巻いていた「疑惑」の目を、フクシマに関心が移ることによって、そらすことができたことだ。
■2030年までに原子炉80基輸出
イ・ミョンバク政権は10年、2030年までに原子炉80基(年平均4基)を全世界に輸出し、韓国を世界3位の原発大国に成長させるという野心的な計画を立てた。世界原子力協会は、2030年までに新設される原発は全世界で430基と予測しており、目標を達成するためにはこの2割を韓国が建設しなければならない。韓国国内で稼働する原子炉が21基(これ以外に、建設中7基、計画中4基)であることを考えると、この数字の大きさがよく分かる。
3.11後、この計画はどうなったか。結論から言うと、イ・ミョンバク政権の原発推進姿勢はまったく変わっていない。
大統領は震災直後の3月14日、UAEの原発の起工式に参列した。5月には激励のために訪問した韓国原子力安全技術院で「原発事故が起きたからといって原子力を捨てるのは人類の後退」とまで発言している。
イ・ホンソク代表によると、3.11後に開かれる原発の討論会では決まって、原子力関係者らは「危機をチャンスに変えるべき」と主張するという。短期的には原発輸出は困難を伴うが、長期的には輸出機会が多いから、いまこそ研究開発に力を注いで、この間に、韓国に不足していた核技術を習得すべきというのが、韓国原子力産業界の考えだ。
韓国原子力産業界は実際、年間2000億ウォン(約141億円)規模の核関連研究開発費を大幅に増額すべきと働きかけている。韓国政府が拠出する研究開発費はここ4年で年平均12%ずつ増えたが、核関連に限定すると2.8%の増加にとどまっているというのがその理由だ。
イ・ホンソク代表は「核関連の研究開発費は分野別では最上位。国家財政以外にも(原子力発電事業者の)韓国水力原子力から原子力研究開発基金をあてがわれている。それでも少なすぎるのか」と反論する。
原発輸出を加速させたい韓国だが、現段階ではまだ、海外での原発受注はUAEの1件のみ。韓国は3.11以前、トルコや南アフリカ、インドネシア、マレーシア、フィリピンなどへアプローチし、先ごろはインドとも原子力協定を結んだが、さらなる案件を受注できるかどうかが注目される。
■UAE原発案件の疑惑はどこへ
韓国にとっては悲願だった原発輸出。UAEへの原発輸出の成功を記念して、締結日となった12月27日(09年)は韓国で「核エネルギーの日」に制定された。経済復興を約束してきた“経済大統領”にとっていかに大きな意味をもつかが見て取れる。
ところが、UAEの原発案件を巡っては韓国国内でさまざまな疑惑が渦巻いている。その1つが受注額だ。韓国政府は当初、UAE原発(出力140万キロワット×4基)の受注額を400億ドル(約3兆円)と発表した。しかしその後、これはうそだったことが判明。政府は186億ドル(約1兆4370億円)に訂正した。通常ではありえない対応から、裏契約があったのではないか、との疑惑が浮上した。
さらに追い討ちをかけたのが、韓国政府によるUAEへの派兵だ。原発受注からおよそ1年後の10年11月、韓国政府は、UAEに軍隊を送る計画を発表。12月27日、先発隊がUAEに向けて出発した。「軍事的な条項が原発の受注契約の条件に含まれていたことがこれであらわになった」(イ・ホンソク代表)
疑惑はまだある。UAE原発の受注額の半分に当たる金額を韓国輸出入銀行が海外市場から調達し、UAEへ融資するという事実が明らかになったのだ。金額の大きさも深刻だが、なにより驚くべきは、韓国の信用度がUAEより低いこと。このため韓国輸出入銀行は、高い金利で借り、安い金利で貸すことになる。損失が出ることは当然避けられない。
イ・ホンソク代表は「原発輸出は経済的メリットさえもないのでは、といった声が国内で出始めた。『UAE原発の受注内容を国政調査すべき』と野党の発言が相次いでいるとき、(推進派にとっては都合の良いことに)3.11が起きた。関心は福島第一原発の事故に集まり、UAE疑惑の問題は一気に後退してしまった」と説明する。
原発の海外展開をもくろむ韓国の動きをどう抑えられるのか。「(原発推進派である)原子力産業界が国際ネットワークを築いているように、反原発派も、原発の輸出国から輸入国までをつないで国際協力していく必要がある。フクシマを教訓に世界の原発をゼロにするのが反原発運動の任務だ」とイ・ホンソク代表は訴える。