「ジャマイカの犯罪発生率は世界でもトップクラス。熱中するものをもつことで、子どもが非行に走らないようにしたい」。そう語るのは、中米ジャマイカで体操教室「西田ジム」を14年にわたって経営する西田慎さん(41)だ。西田さんは同国の首都キングストンで、青年海外協力隊員として体操を教えていた経験をもつ。
体操後進国で生徒800人!
西田ジムの施設があるのは全部で5カ所。キングストンのほか、第2の都市でリゾート地でもあるモンテゴベイ、マンデビルなどだ。新型コロナウイルスがまん延する前までは、幼稚園や小学校、コミュニティセンターなどで出張授業もしていた。行き先は25カ所ほどあった。
施設の特徴は、ジャマイカは体操後進国であるにもかかわらず、器具が充実していること。マットやトランポリン、跳び箱、つり輪、平均台などがそろう。「ジャマイカには体操の器具を作る会社はない。なので、大半は米国から輸入した。マットは、ベッドのカバーやスポンジを作る国内の会社を訪ねて、見本通りに作ってもらった」(西田さん)
生徒の数は現在200人ほど。コロナ禍の前は700~800人だった。年齢は1歳から12歳ぐらいまで。西田さんは「日本と同じで、習い事に一番力を入れるのは小学校の低学年ぐらいのとき。中学に上がると部活があるのでやめていく子も多い」と話す。
スラムの子どもは無料
生徒はレベル別に、「レクリエーション」「育成」「選手」の3つのクラスに分かれる。レクリエーションは前転や側転、逆上がりなどを楽しむ初心者向け。週1~2回、夕方に開く。生徒の7割が通うのがこのクラスだ。選手クラスは世界選手権やオリンピックを目指す上級者向け。ほぼ毎日、放課後から夜9時ごろまである。全体の1~2割を占める。この2つのクラスの中間が育成クラスだ。
レッスン料は1学期(3カ月)1万4000ジャマイカドル(約1万1350円)。ただしスラムに住む生徒は無料だ。その数は現在70人ほどいる。
スラムの子どもたちに無料で教える理由は、彼らが犯罪に囲まれて生きていることに西田さんが衝撃を受けたことだ。
「協力隊時代に出会った8歳の男の子が『タクシーの運転手がきのう、頭を銃で打たれて死んでた』と話すのを聞いてショックだった。この子たちのために何かしなければという使命感にかられた」
西田さんはこう振り返る。
ダンサーが体操コーチに
西田ジムでコーチを務めるのは、西田さんのジャマイカ人の教え子や彼らの友人でダンス経験がある人たち。現在は12人ほど。新型コロナがまん延する前は、アルバイトを含めて30人ほどいた。
コーチになるためには、西田ジムが提供する「35時間の研修」を受ける必要がある。内容は、体操をする子どもの補助の仕方や応急処置、生理学の基礎知識、保護者からのクレーム対応など。最後にはテストがあり、8割とれれば合格だ。
「ダンスやチアリーディングの経験はあっても、体操はやったことがない人が多い。レクリエーションクラスで教えるための最低限のスキルは身につけてもらう」(西田さん)