インド28州のうち25州でスラムの子ども約2000人の就学支援をするNGOスマイルフォーオール。その代表を務めるのが、教育テックビジネスの若手実業家ブネシュ・シャーマ(32)さんだ。ブネシュさんは「毎月500ルピー(約860円)を寄付すれば、自分が支援する子どもの成長を実感できて、自分も幸せになれる」と話す。
ピザを我慢すればハッピー!?
ブネシュさんが目指すのは、低所得者層の子どもを学校に戻すこと。ブネシュさんはインド各地で活動するボランティア約5000人とともにスラムに入り、学校に通っていない子どもを見つけだす。その後、子どもの家一軒一軒を訪ね、学校に行かせるよう親を説得する。地域の学校とも交渉する。
その際にブネシュさんが勧めるのは私立の学校への通学だ。
「公立の学校は先生が来なかったり、トイレがなかったり、と子どもたちにとって良い学習環境ではない。将来を考えたら、私立の学校で学んだ方がいい」(ブネシュさん)
そこで問題となるのが学費だ。私立の学校は平均して毎月1000~1500ルピー(約1700~2600円)かかる。その日暮らしをするスラムの家族にとっては大きな重荷となる。
この問題を解決しようとブネシュさんが2019年に始めたのが「ハッピーサブスクライブ」という寄付システムだ。ハッピーサブスクライバーと呼ばれる寄付者は毎月、一口500ルピー(約860円)をスマイルフォーオールに寄付する。そのお金は、特定の子どもの学費に直接使われるのだ。
ハッピーサブスクライバーは寄付する代わりに、支援相手となる子どもの写真や学習状況、成績を毎月受け取る。自分のお金が子どもの成長にどう寄与しているかがわかり、ただ寄付する以上の充実感が得られるという。
「毎月食べるピザを我慢して(インド人はピザをよく食べる)500ルピーを寄付すれば、そのぶん子どもの笑顔が見れる。ハッピーサブスクライバーは毎月幸せになれるのさ」とブネシュさんは微笑む。
インド西部のジャイプール在住の男性はハッピーサブスクライバーとして、貧しい人が多いといわれる東部のビハール州のパトナに住む子どもの学費を支援してきた。子どもが楽しそうに勉強する写真を眺めているうちにいてもたってもいられなくなり、子どもに会うためにジャイプールから1000キロメートルも離れたパトナを訪問した。
子どもは毎月学費を払ってくれる男性に会えて大喜び。子どもの親も生活が苦しい中、感謝を込めて御馳走を振舞った。家族の喜びようともてなしに男性は感動し、人目もはばからず涙を流したという。
ブネシュさんは「ハッピーサブスクライブはただの定期的な寄付ではない。人の心と心をつなぐ支援スタイルなんだ」と力強く語る。