ケニア大統領の当選発表が大荒れ、取っ組み合いやタイヤ炎上も

ナイロビ・キベラの交差点でタイヤを燃やし、主要道路を封鎖するオディンガ氏の支持者ら。大統領選でルト氏に僅差で破れたオディンガ氏の今後の動向に注目が集まる(撮影:笹田健史)

結果をめぐり、ケニアの大統領選が大荒れとなっている。ケニアの独立選挙区割り委員会(IEBC)のワフラ・チェブカティ委員長は8月15日、「統一民主同盟(UDA)」のウイリアム・ルト氏が新大統領に当選したと発表した。ところがIEBCの別の委員がその直前に、票集計の最後のプロセスに不透明なところがあり、結果に責任がもてないと表明。UDAのライバルである政党連合「アジミオ・ラ・ウモジャ(アジミオ)」の議員らがIEBCの会場で暴れた。

コンピューターがハックされた

荒れる当選発表となったきっかけは、アジミオの選挙監視委員長であるサイタバオ・カンチョリー氏の発言だ。15日の早朝4時半ごろ、メディアに向けてこう述べた。

「『IEBCのコンピューターのシステムがハックされ、一部のIEBCの委員が選挙違反を犯している』と(アジミオの)監視委員から報告があった。この選挙は歴史上、最もずさんなものだった」

カンチョリー氏は証拠を示さなかったものの、IEBCは大きな罪を犯したと批判。こうした状況ではアジミオから大統領選に出馬したライラ・オディンガ氏が会場に来ることはできないと語った。

こうしたことから新大統領の発表は、有力候補者が欠席という異例の事態となった。カンチョリー氏の声明後、アジミオの議員や党員はIEBCの会場から去っていった。

「結果に責任もてない」

騒動の原因はこれだけではない。カンチョリー氏の発言から50分後、IEBCのジュリアナ・チェレラ副委員長が、IEBCの会場とは別のホテルでこう発言したのだ。

「集計の最後のプロセスで、クリアすべき不透明なものがあった。これからアナウンスされる大統領選の結果に責任がもてない」

IEBCの委員の7人のうち、チェレラ副委員長を含む4人がこの発言に賛同。IEBC内部で意見が二分する事態となった。

ところがチェブカティ委員長は、カンチョリー氏とチェレラ副委員長の発言を無視。発表を敢行しようとIEBC会場のステージに座った。それを見て怒ったのが、会場に残っていたアジミオ所属の監視員や議員たちだ。

ステージに上がり、チェブカティ委員長を取り囲んだ。そこで警備隊と衝突。数々のメディアが生放送する中、警備隊とアジミオ関係者の取っ組み合いが始まった。

アジミオの関係者は怒りに任せて、演台や椅子をステージから放り投げる。警備隊は彼らを捕まえ、警棒で殴打する。この騒動でナロク郡選出のレダマ・オレ・キナ上院議員や今回当選したシアヤ郡のジェームス・オレング知事などが警備隊に連行された。

その後、チェブカティ委員長はルト氏の当選を発表した。

選挙は盗まれた

それを見てまた怒り狂ったのがアジミオの支持者たちだ。特にアジミオの地盤であるナイロビのキベラでは、男たちが集まってタイヤを燃やし、主要道路であるキベラドライブを封鎖した。そして火を囲みながら「ノー、オディンガ、ノー、ピース」(オディンガが勝たないと平和は来ない)とい口々に叫んだ。

タイヤを燃やしていた青年は興奮しながら「ルトは金で大統領になった。俺たちの選挙は盗まれた」と話す。

ついに勃発した選挙後の暴動。今後についてキベラの男性は「ババ(オディンガ氏)は近々、選挙結果に異議を申し立てるだろう。その時に民衆に鎮まるよう訴えれば暴動は収まる。そうでなければ、それは暴れろというメッセージだ」と予測する。

選挙結果に不満がある場合、負けた候補者は7日以内に最高裁判所に異議申し立てをすることが可能だ。最高裁は14日以内に選挙の有効性を発表する。無効と判断されれば、2カ月以内に再選挙が実施される。

2013年の大統領選で最高裁は、オディンガ氏の異議申し立てを退けた。だが2017年の大統領選では「無効」と宣言。ケニア史上初めて大統領選の再選挙が実施された。

 火をバックに「ノー、オディンガ、ノー、ピース」(オディンガが勝たないと平和は来ない)と叫ぶオディンガ氏の支持者ら

火をバックに「ノー、オディンガ、ノー、ピース」(オディンガが勝たないと平和は来ない)と叫ぶオディンガ氏の支持者ら(ナイロビ・キベラ、撮影:笹田健史)

オディンガ氏の政党「オレンジ民主運動」が影響力をもつキベラのカムクンジエリア。左端にオディンガ氏の壁画がある

オディンガ氏の政党「オレンジ民主運動」が影響力をもつキベラのカムクンジエリア。左端にオディンガ氏の壁画がある(ナイロビ・キベラ、撮影:笹田健史)

独立選挙区割り委員会(IEBC)の チェブカティ委員長(左)と談笑する新大統領に選ばれたルト氏(右)

独立選挙区割り委員会(IEBC)の チェブカティ委員長(左)と談笑する新大統領に選ばれたルト氏(右)