2023年1月1日に左派(労働者党)のルラ政権が誕生する南米ブラジル。2022年の10月30日に実施された大統領選の決戦投票では、実は、日本に住むブラジル人の8割以上が現職のボルソナーロ氏を支持していた。他国のブラジル人移民に比べて群を抜いて高い割合だ。ラテンアメリカ政治を専門とするアジア経済研究所の菊池啓一副主任研究員は「日本に住むブラジル人の多くが農業が盛んな地域出身だからではないか」と分析する。
日系人は経済優先を喜ぶ
在東京ブラジル総領事館によると、日本からの在外投票の結果は、ボルソナーロ氏支持が83.6%(2万7640票)。ルラ氏の16.4%(5412票)を大きく上回った。ブラジル本国でルラ氏が50.9%で競り勝ったのとはまったく違う結果だ。ちなみに日本国内のブラジル人の有権者数は7万6570人。投票率は40%超だった。
その理由として菊池氏が挙げるのは、日本に住むブラジル人の多くが、農業が盛んなサンパウロ州の内陸部やパラナ州出身であることだ。両州は日系人が集中する地域。日本に住むブラジル人の多くは、1990年の入管法改正の後に来日した日系2世・3世とその家族。この改正で、日本での就労が認められたからだ。
大規模農業・牧畜の経営者などアグリビジネスに従事する人たちは、ボルソナーロ氏の大きな支持基盤の1つだ。その理由は2つある。
1つは、農地を広げるための森林伐採や焼き畑をボルソナーロ氏が奨励したこと。違法伐採を取り締まるブラジル国立再生可能天然資源・環境院の予算を削減した。菊池氏は「環境保護よりも経済開発を優先する政策が、大規模農業・牧畜経営者に喜ばれた」と話す。
ブラジル国立宇宙研究所によれば、北部のアマゾン地域ではこの結果、2019年から毎年1万平方キロメートルを上回る面積の森が消失した。2021年8月からの1年間では1万1568平方キロメートル。これは秋田県に相当する面積だ。