地震とがんで二重苦のシリア人少年をチームベコが助けるワケ、「人としてどう動くかが問われる」

夜寝ている間に家が崩れてくるのを恐れ、市場の中で寝るところを探すサラーハくん一家

2月6日に起きたトルコ・シリア大地震で大きな被害を受けたシリア北部のアレッポで、がんの治療を続ける少年がいる。サラーハ・アハマッドくん(11歳)だ。2年以上にわたって毎月サラーハくんに医療費を送るシリア支援団体であるチームベコのリーダー佐藤真紀さんは「組織の援助が届きにくいところにいる彼を、(公的資金ではない)個人の力で助けたい」と語る。

おば一家が生き埋め

2月6日午前4時17分。揺れが襲ってきたとき、サラーハくん一家は毛布にくるまって眠っていた。「家(無料で住まわせてもらっていた一軒家)が崩れてくるかもしれない」。驚き、慌てて一家は外に飛び出した。

外に出ると、衝撃的な光景が広がっていた。近くのアパートが倒壊していたのだ。そのアパートに住んでいた、サラーハくんのおば、17歳のいとこ、いとこの夫、そして生後2カ月の赤ちゃんが瓦礫の下に生き埋めになった。

サラーハくんらはその日1日、懸命に瓦礫を手でかき分けた。サラーハくんの母は「親せきが生きているかどうかがとにかく心配。そのことで頭がいっぱいだった。サラーハは疲れきって途中で寝入ってしまった」と振り返る。

サラーハくんらの期待もむなしく、おば一家は翌日、全員遺体で見つかった。佐藤さんは「シリアでは親せきづきあいはとても密。地震から少し時間が経ってようやく、親せきの死について少し話せるようになったのかもしれない」と心配する。

地震があった日からサラーハくん一家は、昼間は家にいるが、夜は寝場所を求めてさまよう生活が始まった。最初の揺れで家の壁にひびが入ったうえに度重なる余震で、寝ている間に家が崩れるかもしれないからだ。

「お母さんは『怖くて夜は眠れない』と話していた。車がある人は車の中で、そうでない人は市場の中や墓地などにテントを張って寝ているようだ」(佐藤さん)

こうした状況に追い打ちをかけるのが、倒壊の危険がある建物をシリア政府が取り壊し始めたことだ。佐藤さんは「(家が取り壊された人が行く)シェルターもあるが、手配が行き届いていない。家が崩れてくるのは怖い、でも家が取り壊されてしまったらどこへ行けばいいのか。明日どうなるかわからないという不安がひしひしと伝わってくる」と言う。

被災地から通院する

チームベコは地震が起きた後すぐに、サラーハくんに5万円を送った。混乱の中でも、がんの治療をしなければならないからだ。サラーハくんは、抗体を作る免疫細胞のがんである多発性骨髄腫を患う。がん細胞自体は2022年の8月に消えた。だが骨が弱いため、首都ダマスカスにある病院の整形外科でリハビリを受ける必要がある。

地震の前は週に1度、片道4時間半をかけて母と一緒にダマスカスまで通院していた。佐藤さんは「油断していると、がんは再発するかもしれない。だから、同じダマスカスにあるがん専門の国立病院にも定期的に通って、血液検査などを受けていたようだ」と話す。

チームベコが使う送金サービスはウエスタンユニオンだ。地震発生から1カ月後の3月6日まで、シリアとトルコへの送金に限り手数料は無料だった。ただ届くまでに時間がかかり、サラーハくんがやっと受け取れたのは1週間以上経った2月14日だったという。

チームベコからのお金を受け取ったサラーハくんと母は翌日、ダマスカスの病院へ。無事に検査を受けることができた。「サラーハくんがダマスカスで大好きなファストフードを食べている写真をお母さんが送ってくれた。とてもほっこりした気持ちになった」と佐藤さんは安堵する。

倒壊の危険がある建物をシリア政府が取り壊しているところ。紐をかけて引っ張っただけで簡単に壊れるという

倒壊の危険がある建物をシリア政府が取り壊しているところ。紐をかけて引っ張っただけで簡単に壊れるという

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