日本貿易振興機構(JETRO)は1月27日、中南米7カ国(メキシコ、ベネズエラ、コロンビア、ペルー、チリ、アルゼンチン、ブラジル)に進出する日系企業を対象に実施した経営実態調査の結果を発表した。時期は2014年9月16日~10月17日、回答数は391社。メキシコとコロンビアの業況の良さが際立つ一方で、ベネズエラの低迷ぶりが浮き彫りとなった。
■インドやタイより上
14年の業況感を示すDI値(14年の営業利益見込みが前年比で「改善」と回答した割合から「悪化」の割合を引いたもの)で7カ国中トップだったのはメキシコの36.9だった。コロンビアが33.3で続く。以下、ブラジル0.6、ペルー0.0までがプラス。アルゼンチンはマイナス10.7、チリはマイナス13.1にとどまった。断トツで最悪だったのは、マイナス41.2を記録したベネズエラだ。
メキシコとコロンビアのDI値は、アジアの新興国であるインドネシアの22.6、中国の16.3、タイの0.9と比べても高い。
15年のDI値(見通し)をみると、コロンビアが77.8、メキシコも74.6と高水準。これに続くのがペルー56.3、ブラジル46.9、チリ21.0、アルゼンチン0.0。ベネズエラだけはマイナス35.3と依然として泥沼から抜け出せない。域外では、インド58.2、タイ44.8、インドネシア44.5、中国28.9。
調査ではまた、今後1~2年の事業展開についても質問した。それによると、コロンビアに進出する日系企業の88.9%が「拡大する」と回答。メキシコは81.6%だった。これに続くのがブラジル61.9%、チリ60.5%、ペルー50.0%、アルゼンチン21.4%。最下位はまたとしてもベネズエラの5.9%。ベネズエラの日系企業の35.3%が「縮小する」、58.8%が「現状維持」と答えるなど、事業の方向性を後ろ向きにとらえていることがわかった。
中南米以外で日系企業が拡大意欲を見せているのが、カンボジア79.5%、インド78.2%、ケニア73.1%、エジプト71.8%、スイス71.4%、バングラデシュ71.1%などだ。ただこうした国と比べても、コロンビアとメキシコに対する日系企業の期待の大きさは一目瞭然だ。
■「ブラジルコスト」が足かせ
日系企業の業況感を国別にみると、まず注目すべきはメキシコとブラジルの間で差が広がっていることだ。その理由についてJETROは「メキシコの日系企業の多くが自動車産業に関連するため、メキシコの自動車生産が米国の好調な自動車販売に牽引されて活況を呈していること」「エネルギー改革が実現し、石油資源開発などエネルギー分野の投資活性化による経済成長の加速が期待できること」の2つを挙げる。
メキシコの大きな問題点として進出企業の68.9%が挙げたのが「原材料・部品の現地調達の難しさ」だ。このため北米自由貿易協定(NAFTA)を利用して、米国などから調達している。
対照的にブラジルは、「ブラジルコスト」と揶揄される高コスト構造が日系企業にとっても足かせとなっている。具体的には、高騰する人件費、相次ぐ労働争議・訴訟、高止まりするインフレ、高率で計算が難しい税金、未整備のインフラなどだ。JETROは「ブラジル経済はスタグフレーション(経済活動の停滞と物価の持続的な上昇が併存する状態)の様相を呈していて、出口が見えない」と分析する。
ブラジルの日系企業の76.2%が実際、「調達コストの上昇」を問題視している。ブラジルは関税障壁などを高く設定し、国内産業を育成してきたため、ある程度の裾野産業が存在する。だが部品は割高だ。
今回評価が高かったコロンビアは、世界銀行の最新のビジネス環境調査でもチリとペルーを抜いて中南米第1位にランクされている。経済成長率は2010年以降4%以上で推移。人口も中南米で3番目に多い4700万人。治安改善と中間層の拡大を背景に、ブラジル、メキシコに次ぐ中南米第3の市場として注目がにわかに高まっている。日本とも経済連携協定(EPA)を交渉中で、15年中の妥結が期待される。
コロンビアの隣に位置するベネズエラの経済は最悪の状況。業況感は、ウーゴ・チャベス大統領が死去する前年の12年からマイナスが続く。このところの原油価格の下落が同国の経済環境をいっそう悪化させるとの見方が強い。